第319話 秋の文化イベント(三)昼の部の出番前に

 秋の文化イベントが始まった。最初にステージで、このイベントの主催者の挨拶があり、その挨拶に続くように舞台では迫力のある曲とともに踊りがはじまった。

 最初の出し物は地元のよさこいチームの踊りだ。この夏、よさこい祭りで踊っていたこのチームの踊りは園香そのかたちの記憶にも残っていた。

 迫力のある踊りと見事にそろった振り付けは、観客たちの心を惹きつけイベントを一気に盛り上げた。

 パワーのある踊りに舞台袖ぶたいそでで見ていたゆいや真由も嬉しそうに拍手を送りながら見ている。踊り終わると客席からは割れんばかりの拍手が巻き起こった。

 地元のテレビ局も何社か撮影に来ているようで大きなカメラを持ったカメラマンとマイクを持った女性に、数人のスタッフが舞台の周りで忙しそうにしている。


 その踊りに続くようにジャズダンスの団体、日本舞踊の団体が舞台で踊りを見せる。


 そして、早くも山野美佐子バレエスタジオの出番がきた。


 ここでイベントスタッフが、一旦、舞台を雑巾掛ぞうきんがけする時間をくれた。

 山野バレエの生徒も花村バレエの生徒も既に衣装を着て準備している。すみれが生徒たちに衣装を汚さないよう、そのまま待っているよう指示する。


 すみれと美織みおり瑞希みずき、優一、トレパックを踊る来島樹くるしまいつき遠藤光えんどうひかる。出番が遅い出演者が総出で雑巾掛けをする。

 雑巾掛けするメンバーは、すみれから「雑巾掛けが終わるまで衣装に着替えるな」と指示されていた。手伝いに来てくれた美和子と香保子かほこも入って、かたく絞った雑巾で舞台の床を拭いた後、乾いた雑巾で乾拭からぶきする。

 すみれたちと美織はパーカーにパンツという汚れてもいいような服装で手際よく雑巾掛けをする。

 どこで探してくるのか、今日も瑞希はすみれとまったく同じグレーのパーカーにグレーのパンツ、白いスニーカーという出で立ちで雑巾掛けをしている。


 今回のイベント出演者はジャズシューズという屋内の舞台用シューズで踊るジャズダンスの団体とバレエを踊る山野バレエ、花村バレエの三つの団体以外、他の団体の出演者たちは基本的に普段履いているスニーカーなど外履きの靴で踊る。司会者や他の関係者も外履きの靴で舞台に上がる。


 舞台が土で汚れていると、衣装が汚れたりトゥシューズが滑って転ぶ危険性がある。


 山野バレエの生徒たちも、花村バレエの生徒たちも、自分たちがこれから踊る舞台を青山青葉あおやまあおばバレエ団のプリンシパルたちが雑巾掛けしてくれている姿をの当たりにする。

 自分たちが一生かけても出会うことすらなかったかもしれない最高峰にいるバレリーナたちが、自分たちがこれから踊る舞台を掃除してくれている姿に、出演者たちは戸惑いと、どこか胸が締め付けられるような思いがした。


 客席から千春や大人クラス、今回出演していない生徒、他のバレエ教室の生徒たちも、その様子を見ている。

 すみれと美織、瑞希、優一は拭き掃除をしながら、床の状態と舞台に立ったときのステージの広さ、舞台から客席を見た感覚ををチェックしながら掃除する。舞台から見た空間感覚を確認しながら掃除する。

 優一が瑞希にステージから見える何かを指差しながら話していた。瑞希が頷きながら、その方向を確認する。


 司会者の男性と女性が、ここまでの団体、出演者たちの出し物の感想を話したり、これから踊る山野バレエ、花村バレエの紹介などで時間を繋いでくれた。


 ステージの状態が整い掃除をしていたダンサーたちが舞台袖ぶたいそでに撤収してくる。

 すみれと美織が司会者の二人に丁寧に頭を下げて舞台袖ぶたいそでに戻ってくる。


 待っていた山野バレエのダンサー、園香や真美たち花村バレエのダンサーも、一斉に、すみれたちに頭を下げてお礼を言った。

 すみれが、

「みんな頑張ろうね。いつもと同じだから」

 と声を掛ける。


 司会者の声がイベント会場に流れる。

「では、準備が整ったようです。次に踊って頂くのは、山野美佐子バレエスタジオさんで『ラ・バヤデール』です」


 バレエ『ラ・バヤデール』『かげの場』の曲が流れ始める。

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