第315話 それは小さなアクシデント
今日のリハーサルは衣装付きリハーサルだ。山野バレエの『ラ・バヤデール』から始まる。山野バレエの『バヤデール』は真っ白のチュチュに白のヴェールを付けた衣装。幻想的で美しい衣装に、
花村バレエは『キャンディボンボン』からだった。キャンディの衣装の美しさに山野バレエの出演者や先生たちからも、思わず「すごい」「きれい」と言う声が聞こえた。
いつものように踊り始めるキャンディの子どもたち。小学生低学年の子たちが最初のグループで踊る。続いて唯や真由、三歳から小学生未満の子たちが踊る。皆、慣れた様子で、いつも注意することもなくリハーサルを続けてきた踊りだ。ジゴーニュおばさん役の
唯たち小さな子どもたちのグループがスキップをしながら移動し始めた時、唯が隣で踊っている
一瞬、すみれが普段にない厳しい目線を向けたことに美織と
その後は特に問題のあるところもなく、すべての踊りが終わった。全体を通した後、すみれと美織、あやめ、詩保が出演者たちに細かいアドバイスをしていく。
すみれがキッズクラスのところにやって来た。
「唯ちゃん、転んだけど、大丈夫だった?」
「うん、どこも痛くないの」
唯が笑顔で答える。
「そう、よかった。知里ちゃんは大丈夫? ケガはなかった?」
「うん……ごめんなさい。唯ちゃん、ごめんなさい」
泣きそうな顔をして下を向く知里に、
「大丈夫だよ。唯はどこもケガしてないの」
と唯が笑顔で言う。
すみれが優しく知里と唯の頭を撫でながら、
「二人ともケガがなくてよかった」
と言って、泣きそうになっている知里を抱きしめた。しばらく知里を抱きしめるようにした後、すみれが知里の顔を覗き込むようにすると、知里が泣きながら、すみれに抱きついてきた。
「ごめんなさい」
「いいのよ。知里ちゃん。それより、何か困ってることがあったら、なんでも言ってね」
と言うすみれの言葉に、
「なんにもないの。大丈夫なの」
と言いながら顔をあげる知里。すみれは少し
「大丈夫だったら、よかった。でも、本当に遠慮せずに、なんでも言ってね」
と言って、もう一度、知里を抱きしめた。
笑顔が戻り、また、皆と楽しそうに話し始める知里。唯と真由も楽しそうに知里と話をする。生徒や見学者の間に安堵の空気が広がった。
すみれが美織に近付き静かに言う。
「知里ちゃん、気に掛けて見てあげて、少し気になるから」
美織も頷き、
「何かあるのかしら」
と言う。すみれも分からないという表情で、少し首を傾げるような仕草をして見せた。
その後、もう一度、すべての踊りを通した。二回目は『キャンディ』もまったく問題なく終わった。知里もいつものように楽しそうに踊る。その姿を見て周りの生徒や見学者たちも安心した。
そうして、前日の衣装付きリハーサルは無事にすべての踊りが仕上がった。
あやめと詩保が明日のスケジュールを全員に伝え、その日のリハーサルは終わった。
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