第313話 『ドン・キホーテ』キューピッドから

 リハーサルは『くるみ割り人形』から『ドン・キホーテ』に続く。

 理央りおのレベルの高い『キューピッドのヴァリエーション』から、北村、秋山が優一と踊る『バジルとキトリの友人の踊り』に続く。

 そして、全国トップレベルの真美が踊る第一幕の『キトリのヴァリエーション』と息をつく暇もないほどハイレベルな踊りが目の前で踊られる。

 続けて、その日は、すみれが『メルセデスのヴァリエーション』美織みおりが『ドルシネアのヴァリエーション』を踊る。この二曲はまったく容赦ないほどの表現と技術で二人がせる。他の出演者に気兼ねすることなく最高のものをせてくる感じだ。

 一緒に踊っている花村バレエの出演者たちも、ここに来て、すみれと美織の本気の踊りを見せられた気がした。園香そのかや真美も見ていてそれを感じる。


 東京の青山青葉あおやまあおばバレエ団の『白鳥の湖』の公演でもそうだった。すみれは『ルスカヤ』という主役ではない役の踊りを踊った。しかし、あの大きな劇場で、観客の誰もが彼女の踊りに注目していたのがわかった。


 踊り終わって見学席から大きな拍手が巻き起こる。ゆいと真由は嬉しそうに拍手をしている。


 真美が苦笑いするように呟く、

「この二人、私の後にさあ、なんか私の踊りをかき消すくらいやってくれるなあ。普通やったら、こんな踊り見せられたら、この後、踊る瑞希みずきさんと優一さん……主役の踊りも踊りにくいで」


 その後、瑞希みずきと優一が『キトリとバジルのグラン・パ・ド・ドゥ』を踊る。バレエ『ドン・キホーテ』の主役二人が作品の最後を飾る踊りだ。

 この踊りは曲も華やかで、バレエコンサートなどでも注目射される演目となる。


 真美は、すみれと美織の踊りの後で踊りにくいと言ったが、瑞希と優一はまったく気にしていないという風に二人の踊りに集中して踊る。

 二人とも青山青葉あおやまあおばバレエ団のプリンシパルだ。誰が自分の前で踊ろうと観客の前ではプリンシパル(主席ダンサー)として最高の踊りを踊ることが要求される。そういうシチュエーションに瑞希も優一も慣れているという感じだった。

 瑞希と優一が踊り終わった後、また、稽古場は、見ていた生徒たちや見学席からの惜しみない拍手に包まれた。


 花村バレエの出演者全員が全力の踊りを見せた。そこに見劣りがする踊りなど一つもなかった。

 踊り終わって、すみれと美織が『くるみ割り人形』から『ドン・キホーテ』まで、一人一人に流すようにアドバイスしていく。簡単ではあるが的確なアドバイスは確実にダンサーたちのレベルを引き上げていく、それが周りで見ている者にもはっきりわかった。


 花村バレエのリハーサルが終わり、もう一度、山野バレエ、花村バレエの生徒が入り乱れるように、すみれ、美織、瑞希、優一の周りにアドバイスを求めて集まる。

 すみれたちは丁寧に一人一人に細かいところを注意していく。一通り練習を終え、山野詩保、花村あやめから明日の最終リハーサルのスケジュールが伝えられた。


 場所は花村バレエ。衣装付きの最終リハーサルだ。

 いよいよ、最後の合同リハーサルが行われる。

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