第310話 リハーサル『ラ・バヤデール』影の場とヴァリエーション
舞台
先頭の恵梨香は舞台
こうして、三十二人が舞台に出そろったところで、一列に八人、八人四列の状態で整列する。
そして、その整然と並んだ状態で三十二人が美しく踊り始める。
この時、アテール(トウシューズのつま先で立つことなく足裏を全部床に付けた状態)で片足で立って取るポーズがいくつかある。
これは見た目より難しい。トウシューズはつま先で立つため、シューズの底が足幅より若干幅の細い硬い板状になっている。ダンサーは踊りやすよう、履き始めるときトゥシューズを、ある程度、柔らかくほぐして履くのだが、それでも、つま先で立たなければならないのでトゥシューズの底は硬い作りになっている。
これがアテールという足裏を全部付けた状態で、片足で立った時、見ている人からすると足裏を全部付けて安定していると思われるかもしれないが、片足で細い板の上に立ってバランスを取っているような感覚に見舞われる。
アテール(足裏を全部付けた状態)で片足バランスを取るのは難しい。
これが舞台の上で、広い客席に向かってバランスを取るとき強い体幹を持っていなければ、空間に飲まれてしまう、体の平衡感覚がなくなってしまうのだ。
三十二人の生徒たちは練習を積んでいるようで、すみれや
この安定感の部分については、普段レッスンを見ている山野美佐子や詩保も驚くほど、生徒たち一人一人が落ち着き、安定した踊りを見せた。
そうは言っても、時々バランスを失いふらつくダンサーもいたし、体の向きや細かい部分では、今まで見てきた、すみれや美織が普段注意するレベルからすれば、まだまだ、という感はあった。
しかし、瑞希を含め、すみれも美織も、よくこの踊りを三十二人という人数で、ここまで踊れていると驚いた表情を見せ、生徒たちと美佐子、詩保を称賛した。
一通り『
その後、いくつかのヴァリエーションを踊り、すみれたちからアドバイスをもらう。
ヴァリエーションについては、この『
この踊りについても瑞希やすみれ、美織たちから細かい部分までアドバイスをもらっていた。二人だけでなく、周りにいる生徒たちも皆、真剣な眼差しを向けてアドバイスを聞く。
ガムザッティとニキヤのヴァリエーションについては、それぞれの踊りを、すみれが曲で踊って見せた。
生徒たち、美佐子、詩保ばかりでなく見学席からも大きな拍手が響いた。リハーサルに来ていた
すみれが見学席に微笑み、恵梨香と由美にもう一度アドバイスする。
恵梨香と由美が、もう一度踊る。周りで見ている者からも、この僅かな時間の指導で、すべての踊りのレベルが各段に上達したのがわかった。
すみれが微笑んで、
「よくなった」
と言うと二人は、すみれたちに頭を下げてお礼を言い、手を取り合って喜んでいた。
一通りアドバイスを終えて、すみれが
「こんなに皆が踊れるんだったら、いつか『バヤデルカ』全幕公演ができるといいわね」
と言うと、皆、嬉しそうに微笑んだ。
――――――
〇エファセ・アラベスク
エファセは客席から見て体が開いた状態。例えば客席から見てダンサーの体が左を向いているとき左足(客席から見て手前の足)を上げた状態がエファセ。これに対して客席から見たとき、ダンサーの体の向きが左を向いた状態で右足(客席から見て奥の足)を上げた状態をクロワゼという。
アラベスクは片方の足をまっすぐ伸ばして後ろに上げるポーズ。
〇パンシェ
パンシェは「傾けた」の意味。アラベスク(上体をまっすぐ保ち片方の足をまっすぐ後ろに伸ばして上げるポーズ)で足を後ろに上げたまま、上体を前に倒し、後ろに伸ばした足を更に高く上げる動作。ポーズ。
〇アテール
アテール(À TERRE)は「地面に」の意。足裏を全部床に付ける。
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