第304話 すみれの指導が始まる

 残り一週間を切って、すみれが『中国の踊り』『トレパック』『あし笛の踊り』にも『ドン・キホーテ』のそれぞれの踊りにも、細かくアドバイスをするようになってきた。


 優一と北村、秋山が踊る『ドンキホーテ』の『バジルとキトリの友人の踊り』も、すみれが鏡の前で真剣な眼差しで踊りを見ながら、かなり細かいところまでアドバイスをする。

 今まで、すみれは、いつも優一と北村、秋山の踊りを微笑みながら眺める様に見ていた。しかし、ここにきて、すみれの指導が変わってきた。


 足を踏み込むタイミングと体の向き、ランベルセにつま先で立ち上がるときの体の向き、後ろに上げる足の向きと高さ、上半身を残す向き、そこから体を回転させるタイミング。腕を上げる角度。顔を残す角度……優しく丁寧に教えるその指導は繊細で、驚くほど細かいところまで注意していく。


 北村も秋山も真剣な眼差しで、すみれからのアドバイスを聞く、全身で技術、表現を学び取ろうとする姿勢が窺える。

 その上達は目を見張るものがあり、二人の踊りの質がどんどん上がっていくのが園香そのかたち周りで見ている者にもわかった。

 しかし、すみれの細かい注意についていけるのは、その二人の集中力ばかりではないことを感じる。今まで和やかな雰囲気で和気藹々と踊っていたように見えた優一との練習。その効果が表れていることが周りの目からもわかる。優一からの指導が一つ一つ基本を捉えた練習になっていたのだ。すみれの高度な指導を、まるでスポンジが水を吸い込むように吸収していく。


 鏡の前で見ていた真理子とあやめも真剣な表情ですみれの指導を聞く。一回一回、指導する箇所を丁寧に、すみれが踊って見せる。

 ゆいと真由がランベルセを真似ようとする。微笑みながら、ゆいと真由の頭を撫でるすみれ。


 舞台を華やかに大きく移動するようアドバイスする。北村と秋山の動き、踊りが見る見るレベルアップしていく。

 洗練された踊りというべきだろうか、細かいところが際立ち、華やかな中にも正確に美しく踊る姿に目がいく。大きいが雑さがない。短い踊りであるが見応えがある。

 何というレベルの高さだろう。この二人を「青山青葉あおやまあおばバレエ団のソリストです」と言っても、誰も疑わないのではないか。青山青葉バレエ団のプリンシパルであった優一の両隣で踊って、まったく素人っぽさがない。

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