第26章 文化イベントまで、あと少し

第303話 イベント一週間前

 文化イベント一週間前の週末。

 花村バレエは今回『くるみ割り人形』の二幕のディベルティスマンと『ドン・キホーテ』の抜粋を踊る予定だ。曲の順番は、すみれと美織みおりが考えた。まず『くるみ割り人形』をディベルティスマンの順番で踊る。ただし、全てではない『中国の踊り』『トレパック』『あし笛の踊り』『キャンディボンボン』『金平糖の精の踊り』を踊る。

 そして、バレエ『ドン・キホーテ』から『バジルとキトリの友人の踊り』第一幕の『キトリのヴァリエーション』『キューピッドのヴァリエーション』『ドルシネアのヴァリエーション』『メルセデスの踊り』最後に『バジルとキトリのグラン・パ・ド・ドゥ』


 すみれと美織が相談して、本番はこの順番で踊ろうということになった。北村と秋山、真理子とあやめも「これなら楽しさと華やかさを見せられていいと思う」と賛同してくれた。


◇◇◇◇◇◇


 北村と秋山が同じ文化イベントに参加する山野美佐子バレエスタジオと連絡を取っていた。市内のバレエスタジオは互いに交流がある。

 山野美佐子バレエスタジオは『ラ・バヤデール』の『かげの場』のコール・ド・バレエと、いくつかのヴァリエーションを抜粋で踊るそうだ『影の場』はバレエ・ブラン、白のバレエと呼ばれる美しいバレエだ。

 バレエ・ブランとは白い衣装でコール・ド・バレエ(群舞)がせるバレエだ『白鳥の湖』『ジゼル』『レ・シルフィード』『ラ・バヤデール』などがそれだ。

 この『ラ・バヤデール』(バヤデルカ)はインドの舞姫ともいわれインドを舞台にした物語だ。作品の中の『かげの場』は幻想的で最も美しい場面の一つだ。


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 その日は真理子とあやめが文化イベントの練習を見に来た。日頃から練習している『くるみ割り人形』は既に形になっている。それは何度も繰り返してきたリハーサルで真理子もあやめも見ていた。

 二人が想像以上の仕上がりだと驚いたのは『ドン・キホーテ』の抜粋の方だった。

 こちらは考えてみたら『バジルとキトリの友人の踊り』は優一と北村、秋山という花村バレエのバレエ教師二人。第一幕の『キトリのヴァリエーション』は真美。そして『キューピッドのヴァリエーション』は理央りおだが、ここも実力のあるバレリーナだ。次の『ドルシネアのヴァリエーション』と『メルセデスのヴァリエーション』はすみれと美織という最高レベルのダンサーが踊る。最後は国際コンクールを目指す瑞希みずきと優一の『ドン・キホーテ』の第三幕『キトリとバジルのグラン・パ・ド・ドゥ』このキャスティングなら即席でもまとまらない訳がない。


 青山青葉あおやまあおばバレエ団でプリンシパルを務めていた錚々そうそうたるダンサーたちの中にあって、北村と秋山も堂々とした踊りを見せる。

 真理子やあやめと共に花村バレエで指導を任され、舞台にも立つバレエ教師二人だ。相応のテクニックと表現力は身に付けている。

 真美の実力は既に誰もが認めている。ここまで『くるみ割り人形』のリハーサルや、この文化イベントのリハーサルを見ても非常にレベルが高いバレリーナであることがわかった。

 理央りおは普段のレッスンでは、おとなしく、あまり目立たない生徒だったが、真理子やあやめたちバレエ教師の間では素質があると一目置いていた生徒である。

 今回の『キューピッド』は、その理央りおにすみれが付いて指導している。他の踊り、プロの踊りに、引けを取らないどころか、輝くような作品に仕上がっていた。

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