第300話 避けては通れないお金の話(二)

 真理子とあやめが周りを見回す。コンサートミストレスの久木田くきたがテーブルにあった紅茶のカップに口を付ける。


 隣に座っていたフルートの有澤が静かに、青葉あおばの方に目線を向けながら言う。

元々もともと、この十二月の演奏の方は花村バレエさんの依頼がなくても中国、四国地方で公演の予定だったんです。観客動員できるんですよ。私たちのオーケストラは……全国各地で。青山青葉あおやまあおばバレエ団さんもそうでしょうけど」


 青葉も恵那えなたちの言葉を受けて真理子とあやめに言う。

「そこで……というのも、あれだけど、最初からお話してたように、私たちも全面協力ということで、パンフレットや広告のについては任せて頂いてもいいかしら。もちろん、花村バレエさんが日頃からお付き合いのある大切なお客様やスポンサー様は最優先で私たちも大切にお付き合いさせて頂く所存です」

「はい」

 頷く真理子。


「ただ、今回の公演に関して恵那さんも仰っていたようにパンフレットやポスターなど宣伝に関わる部分は私たち青山青葉あおやまあおばバレエ団と新高輪フィルハーモニーに深く関与させて頂けないかと、そういう申し出なんです」

 青葉あおばの隣にいたとおるも無言で真理子たちを見つめる。


 バイオリンで、あやめの同級生でもある青柳彩弥あおやぎさやが言葉を添えるように言う。

「別に花村バレエの記念公演を乗っ取るような感じじゃないですよ。あくまで、花村バレエさんの記念公演です。バレエの公演です。私たちの演奏はオーケストラピットで演奏しますし、今日、この提案をさせて頂いたからと言って、バレエの配役、出演者も今リハーサルしている通りです。青山青葉バレエ団のバレリーナをもっとたくさん出演させるようにとか、配役をどうしてくださいとか、そんな口を出すことは一切いっさいないですよ。宣伝の部分で少し私たちにの意見を取り入れて頂きたいということです」


 青葉が横から口を添える。

「いえ、彩弥さやさん、そこは少し違うわ。意見を取り入れるというより、公演パンフレット、チラシ、ポスターなどについては、うちの青山青葉バレエ団の広報担当に全権を委ねて下さらないかしら」

 青葉が真理子、あやめを含め、恵那たち新高輪フィルハーモニーの面々の表情を伺うように見つめる。


 全国各地で数々の舞台を成功させてきた名門バレエ団の主催者の言葉に、全員が無言で頷いた。

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