第296話 恵那と久木田の訪問 青山青葉バレエ団

 新高輪しんたかなわフィルハーモニー指揮者の恵那一矢えなかずやとバイオリンの久木田華くきたはなは、次の日、青山青葉あおやまあおばバレエ団の青山青葉あおやまあおば青山徹あおやまとおるを訪ねた。恵那は確認しておきたいことがあった。それは十一月の花村バレエのリハーサルに向けて、もう一度曲のことを聞いておきたかった。

 連絡を受けた青葉も、こちらからの急な依頼であったこともあり、恵那と久木田の訪問に対し、丁寧に対応しなければならないという思いが強かった。普段から強い繋がりのあるオーケストラだ。

 とおる古都こと恵人けいとの他、げんのぞみしずか寿恵としえまで、今回ゲスト出演する者全員で、恵那たちを迎えた。


「急に訪ねてきてすみません」

 恵那が青葉に急な訪問を詫びる。

「いえいえ、こちらこそ、急に難しい依頼をして、ごめんなさい。そして、ありがとう」

 青葉も恵那が突然の依頼に応じてくれたことに礼を言った。


 早速、十一月のリハーサルのことで詳細を話し合った。真理子やあやめたち花村バレエの関係者は今日はいないが、青葉やとおるは今回の花村バレエの演出に深く関わっている。曲については花村バレエの真理子に聞かなくても、青葉と徹に聞けばわかる。


 昨年の冬、青山青葉あおやまあおばバレエ団で『くるみ割り人形』の全幕公演をしたばかりだ。この時のバレエ団の演出は青山徹が取り仕切っていた。

 その時の曲は新高輪フィルハーモニーが演奏した。指揮は恵那。コンサートミストレスは久木田。今回の花村バレエの公演で演奏するメンバーが演奏した。

 今回の花村バレエ公演について言えば、演出も振りも、ほとんど、その時と同じ物ということだ。


 そして、徹がバレエ『くるみ割り人形』の全幕のCDを持って来た。

「恵那さん、これですよ。普段、花村バレエの練習で使っているCD」

「へえ、これをそのまま使ってるんですか?」

 徹が古都こと恵人けいと寿恵としえに確認する。

「花村バレエでは、そのままこのCD使ってたよねえ。テンポ変えたり編集したりしてなかったでしょう」

 古都こと恵人けいと寿恵としえも稽古でデッキについて音出おとだしを手伝ったことがあった。古都ことが思い出すように、

「はい、特に何かを変更して音出おとだししたりしてなかったですよ」

 寿恵も恵人も頷きながら、

「CDをそのまま使ってましたよ」

「僕もこのCD持ってるから何度も聞いてますけど、デッキも特に曲のテンポを調整したりしてなかったですよ」

 恵那がCDを眺めながら、

「ふうん。まあ、市販のCDって音楽鑑賞用だから、踊るには若干テンポが速かったりすることもあるんだけど……キャンディの小さい子たちも、このCDをそのままで使ってたんだ」

「ええ、そうですよ」

 寿恵が答える。横から青葉が言葉を添えるように、

「明日、真理子さんとあやめさんが東京に来るみたいだから、新高輪フィルハーモニー行ってもらいましょうか?」

「え? そうなんですか。じゃあ、是非、明日、この『くるみ』練習することになってたよね」

 恵那が久木田に視線を向ける。久木田が頷きながら、

「ええ、丁度、今度、リハーサルに行くメンバーが集まりますよ。まあ、今度の高知のリハーサルに向けてとしては、初めて集まることになるんですけど、この前の青山青葉バレエの『くるみ』と同じなら、多分、皆すぐに合わせられますよ。演奏するメンバーも一緒ですから」


 青葉が、

「それは心強い」

 と微笑んだ。

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