第25章 十一月のリハーサルのために 新高輪フィルハーモニー
第295話 新高輪フィルハーモニー 十一月のリハーサルに向けて
バイオリンの
「おお、団体様ね」
部屋にいるメンバーを見て有澤が驚いた。有澤と久木田がカップに紅茶を入れてテーブルにつく。
久木田や有澤、青柳にしても、本番の一ヵ月も前に、本番と同じホールを取ってリハーサルをするバレエ団など聞いたことがなかった。
「こんなことがあるんですか?」
久木田が驚いて聞く。
「ああ、僕も初めてだけど、
恵那も依頼された内容を自分の中で消化できてないといった雰囲気だ。困惑の様子が久木田たちに伝わった。
「すごいわね。まるで海外の劇場オーケストラを擁しているバレエ団みたいじゃない。英国のコヴェント・ガーデン王立歌劇場管弦楽団とか、ロシアのマリインスキー劇場管弦楽団やフランスのパリ国立歌劇場管弦楽団とか……」
驚き混じりに言う久木田。
青柳が自分たちの事より花村バレエのことを気にしているという表情で呟くように言う。
「オーケストラの費用はバレエ教室が持つんですよね」
「まあ、そうじゃないの」
恵那が窓の外に目を向けながら言う。
「観客なしでリハーサルにオーケストラを入れたら……どこで回収するの、その費用」
久木田が呟く。
「……」
「あり得ないわね。観客も入れないリハーサルにスポンサーも付かないでしょう。何の宣伝効果もないわよ。本番当日のチケット代やスポンサー料で賄えるの? そのホールって観客の収容数はどれだけなの? 相当の客席数がないと、いろんな費用を回収できないんじゃない。費用を回収しようとすれば、チケット代が跳ね上がるでしょう……あるいは出演者たちの参加費用が……まあ、余計なお世話かもしれないけど」
有澤が紅茶のカップに口をつけながら呟く。
「恵那さん、こっちはどういうメンバーで行くの? その十一月のリハーサル」
「取り敢えず、こちらとしても団員に負担はかけられないし、先方への費用的な負担も考えて最少人数で行こうと思ってる」
「最少人数って? リハーサルと言っても『くるみ』の全幕やるんでしょう。抜粋とかじゃなくて」
有澤のその言葉に被せるように、久木田が言う。
「こちらもある程度本番通りじゃないと、花村バレエの方々も『これならホールでやる意味がなかった』ってならない?」
「ううん……んん」
溜息とも唸り声とも取れる変な声で悩むような表情を見せる恵那。
久木田や有澤も恵那の悩みは理解できるが、久木田たちとしても話が一ヵ月後というタイトなスケジュールとなると、自分たちの予定も立たなくなる。速い決断を求めたいのだが、突然のことで皆それぞれに困惑した。
翌日には恵那から十一月にリハーサルに参加するメンバーと、それに向けてのリハーサルのスケジュールの連絡が回った。
事が事だけに不満や文句を言うメンバーもなく、どうしてもスケジュールが折り合わない数人を除いて、間もなくリハーサルが始まった。
メンバーはコーラスを除くほぼ全員が参加することになった。
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