第294話 キューピッドの衣装 由香
週末、昼の飛行機で由香がやって来た。由香は
「由香、あなた、衣装、送ってきてくれるのかと思って待っていたのよ。持って来てくれたの?」
「持って来た方が速いかと思って」
すみれの言葉に由香が微笑みながら答えると、すみれが笑いながら、
「いやいや、あなたが来るか来ないかの違いで衣装が着く速さは同じじゃないの?」
「まあまあ、真美ちゃんのスペインの衣装も持って来たわよ。キューピッドとスペイン、頭飾りも一緒にね」
由香が持って来たキャリーバッグから衣装を取り出しながら微笑む。
「ありがとうございます」
真美も驚きながら礼を言う。キューピッドの衣装は文化イベントのために急いで作っていたのは知っていたが、同時進行でスペインの衣装も作っていたのかと驚いて聞くと、由香は涼しい表情で、
「来月、十一月にある
と言う。
そうだった、
◇◇◇◇◇◇
その日も、また、美和子、
週末は『くるみ割り人形』の公演練習がメインになる。文化イベントが近付いてきているのだが、
だから、公演の練習が文化イベントの練習になる。
文化イベント出演者の中で、理央たち八人だけが『ドン・キホーテ』の踊りを踊ることになっている。
瑞希、優一、すみれ、美織の四人は何の踊りでもすぐに踊れる。それは今までも、そういう姿を何度となく見てきた。
北村と秋山はバレエ教師だ、すみれたち程でないにしても、一曲、しかも、今までに踊った経験のある振りが一曲増えることぐらい大したことではない。
真美にしても『ドン・キホーテ』一幕のキトリのヴァリエーションは、既に自分の踊りという感じで、まったく負担になっている様子は見えない。
急に新たな踊りを振り付けられることになった理央。理央については、誰もが最初、少し不安を感じたが、すみれの親身な指導もあって、まったくキューピッドのヴァリエーションが重荷になっていないようだ。いつも楽しそうに踊っている。
この日は既に理央も稽古場に来てストレッチをしていた。すみれたちが集まっているのに気付いて理央もやって来た。
由香が理央に微笑みながら、
「キューピッドの衣装持って来たから、よかったら後で着てみて」
と言うと、
「はい」
と理央が嬉しそうに微笑みながら答える。
◇◇◇◇◇◇
その日も通常のレッスンがあった。
美和子や香保子も以前よりずっと丁寧にバーレッスンを受けている。すみれや美織も二人を気に掛けて、よく見てくれる。
通常レッスンの後、次のキッズクラスのレッスンまでの間の時間を使って、文化イベントの練習をする。
その間にキッズクラスの子どもたちが集まり始める。いつものように
すみれと美織が見るなか、由香に見てもらいながら、理央がキューピッドの衣装を着る。
美しい白いジョーゼットの衣装。小さな白の花飾りがあしらわれている。
「理央ちゃん、これかぶって。くるくるヘアーのかつら」
プラチナブロンドというのだろうか白に近い金色のくるくるヘアーのかつらを由香が理央にかぶらせる。
「すみれ、美織、瑞希、見といて。園香ちゃん、真美ちゃんも、もし、理央ちゃんが困っていたら手伝ってあげられるように見といて」
と言って、手際よく理央にかぶらせた。
「うわー! キューピッド。かわいい」
唯と真由が目をキラキラさせて理央を見る。周りで見ていた美和子と香保子も、可愛らしい理央の姿に目を奪われる。
「
すみれの言葉に理央は笑顔で頷き、曲で一度通す。
「うわー!」
と言って、唯と真由が拍手する。周りで見ていたキッズクラスの生徒や見学のお母さんたちからも、
「かわいい」
と言う声が上がった。すみれと美織も、
「いいじゃない」
と理央に微笑む。理央もこの踊りを踊ることにしてよかったと思った。教室の鏡に映る自分の姿に笑顔がこぼれる。
ちょうど教室に入って来た真理子とあやめも可愛らしいキューピッドの衣装に微笑み。
「理央ちゃん、いいじゃない」
「理央ちゃん、可愛いわよ」
と微笑んだ。
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