第293話 思い掛けない申し出
花村真理子とあやめは文化イベントの打ち合わせで、市内にある会議所を訪問していた。文化イベントの参加者たちが集まり、イベントの段取りなどを確認する会だった。会を仕切っているのは文化イベント主催団体の担当者中田だった。
中田が、当日のイベント会場の詳細な内容、タイムスケジュールや控え室の状況などを説明した。
当日は地元の夏祭りの参加団体やストリートダンスのチーム、ジャズダンススタジオの団体、日本舞踊、市内のオーケストラ、コーラスの団体、大道芸の人たち、そして、小中学生、高校生から大学生の団体と数多くの団体が出演することになっており、それぞれの主催者や代表者、先生たちが会に参加している。市内の他のバレエ教室もいくつか参加している。
花村バレエは、ここ数年参加しており、昨年も参加したが、年々少しずつ規模が大きくなっている気がしていた。
このイベントは地元の商店街、地元企業も協賛している。協賛企業や商店街の人たちの数も、数年前から比べると随分多くなったことに気が付く。そういう人たちも会に参加していた。
一通り説明を聞き参加する他の団体の主催者たちと挨拶を交わした。花村バレエは地元でも名前が知られており他の団体からも、よく知られていた。
地元の商店街や地元企業の人たちの中にも、真理子、あやめと面識のある人が多かった。その中に松井佐和、
ここに集まっている関係者の中には、佐和たちのお父さんのように子どもを花村バレエに通わせていたり、子どもが小さかった頃、通わせていたという関係者もいた。
今回は市の文化イベントということもあり文化ホール管理団体の橋村も会に出席していた。今度の花村バレエ記念公演を上演する文化ホールの職員だ。
真理子とあやめのところに橋村がやって来た。佐和たちのお父さん松井社長と一緒に来る。
橋村とは県内の文化的な催しの際、顔を合わせることも多く真理子やあやめはよく知っていた。今回の花村バレエの三十周年記念公演のことでも、既に何度か顔を合わせていた。
松井社長は県内で知らない人がいないというほどの人物で、橋村と面識があっても不思議はないのであるが、この二人が一緒に来ると、さすがに、真理子もあやめも、何だろう? という思いがした。
そんな橋村と松井社長から思い掛けない話があった。
それは記念公演の一ヵ月前、来月十一月中旬の週末の土日の二日間、予定の団体のキャンセルがあってホールが空いており、使ってもらってもいいというものだった。
真理子はスケジュールの都合がつけば利用させてもらいたいという思いがあった。本番一ヵ月前に、本番と同じ舞台でリハーサルができれば、そんな心強いことはない。
一方で、そんなに急に言われてもゲストダンサーやスタッフの都合がつくか不安がある。そこの都合がつかなければ、
あやめが隣から、
「オーケストラの人たちが来れたらいいのにね」
と言う。真理子も、そう思った、本番と同じ舞台で、生オーケストラで全幕を踊るリハーサルができたら、それはすごいことだ。しかし、そうなるとホール代に合わせてオーケストラ奏者のギャラは……と考えると恐ろしくなってくる。
そうは思っても、折角、言ってくれているのだから、橋村にできるだけ早く返事をすると言って、時間をもらうことにした。
真理子とあやめは、橋村と松井社長の二人に丁寧にお礼を言い、その日の会は終わった。
◇◇◇◇◇◇
その夜、真理子は
恐ろしいほど速い決定に驚く真理子だったが、もう一つの気掛かりである、ギャラのことを口にすると、
そう言われても、何人来るかわからないオーケストラの奏者に一体いくら掛かるのだろう……不安が募る。
真理子とあやめにとっては気になることも多かったが、とにかく、十一月のリハーサルは本番と同じ状況でホールでリハーサルをすることを決断した。
このことについては、同時にあやめが、すみれと
さすがに、すみれや美織も驚いたが、それは素晴らしいことだと喜んでくれた。
翌日、花村バレエのスタッフ全員に連絡が回った。誰も皆、一様に驚きの表情を見せたが、本番一ヵ月前に舞台リハーサルができることを喜んだ。
真理子は橋村に連絡しホールを押さえた。
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