第23章 キューピッドのヴァリエーション、キトリのヴァリエーション
第287話 キューピッドのヴァリエーション 理央
すみれが
「はい」と返事をして壁のバーでトゥシューズを慣らす真美。真美と一緒に
瑞希がすみれと理央の様子を見ながら、
「すみれさんが直接振り付けの段階から教えるなんてバレエ団じゃ見たことないよ。まあ、美織さんは、たくさん振り付けしてもらった経験あるんだろうけど」
と呟く。美織が微笑みながら、
「私は、多分、バレエ団の中で、私だけだったかもしれないけど、私はほとんど振り付けは、すみれさんからだったから」
「羨ましいです」
という瑞希に、もう一度、微笑んで、
「でも、小学生、中学生の頃は、友達や先輩、後輩は皆、松野先生たちから振り付けられてたのに、なんで私だけ先生じゃなくて先輩が振り付けるの? って思ってたよ。私が下手だから先生に見捨てられてるのかな……って」
「そんなわけないでしょ。ここだから言えるけど、皆、すみれさんから教えてもらってた美織さんを羨ましがってましたよ」
すみれが優しく丁寧にキューピッドの振りを教える。
「理央ちゃんもバレエやってて、何度か……いや、何度もかな『キューピッドのヴァリエーション』は見たことあるでしょ」
「はい」
「バレエ『ドン・キホーテ』第二幕第二場でドン・キホーテの夢の中のシーンとして出てくるキューピッド。ドン・キホーテが風車から落ちて気を失って夢を見る。その夢の中で森に妖精たちがいる風景を見るのね。そこにドン・キホーテが探し求めていたドルシネアというお姫様が出てくるんだけど。その場面でキューピッドが現れる」
すみれの説明を鏡越しに聞く理央。
「ちょっと私が踊ってみようか」
そう言って、すみれが最初の数小節を踊って見せる。理央が思わず「すごい」と声を漏らした。何かが違うまるで本当のキューピッドのように宙を舞っているかのような
園香と瑞希ばかりでなく見学している美和子と香保子も、すみれと理央のレッスンに意識を集中している。美和子も香保子もバレエの振り付けをするところは見たことがなかったようで見入っている。
稽古場では美織と真美が一緒にトゥシューズを慣らしながら、キトリのヴァリエーションの話をしている。園香と瑞希もトゥシューズの準備をしながら、すみれと理央の振り写しの様子を見ていた。
園香が稽古場を見回すと、向こうの方では優一が北村、秋山と一緒に『ドン・キホーテ』の一幕、バジルと町娘二人の振りを確認している。何か笑いながら踊っている三人を見ながら、北村たちはなんだか楽しそうに踊っているなと思った。
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