第285話 バーレッスンからセンターレッスンへ 美和子、香保子

 バーレッスンでは一つ一つのエクササイズの最後にバランスを確認して終わるものが多い。

 美和子と香保子かほこがふらふらしながらバランスを確認していると、後ろから美織みおりが背中、腰の位置を直す。

「ここ」

 直された二人は少し驚いた表情を見せるが、すぐに自分で体の軸、重心を確認する。ピタッとバランスが取れた。美和子も香保子もハッとした顔をする。今まで自分の中になかった感覚がはっきりわかった。

 思わず二人とも、この人は誰だろうという風に見ていたが、体の向きを変えて反対側のエクササイズに入ると香保子は目の前でバーレッスンをする美織の美しいラインに目を奪われる。

 片足でバランスを取るアチチュードも、今まで見たことがないほど綺麗なラインに入る美織の姿に見惚みとれてしまう美和子と香保子。本当に同じ人間だろうかと思うほど美しい。その一つ一つのポーズは、決して想像を超えるほど足を高く上げたり柔軟性を強調するようなものではない。過剰な表現ではないが本当に一つ一つが、この位置、この高さという綺麗なところに入る。


 二人から少し離れたバーでバーレッスンをしている瑞希みずき、そして、体の向きを変えると視界に入る稽古場の中で一際目を引く美しいバレリーナすみれ。

 今日、稽古場に来た時『バレエの世界で神様みたいな人たち』と紹介されたが、プロのバレリーナを間近で見たことのない美和子と香保子もレッスンの様子を見て、改めてこの四人がプロのバレリーナの中でも突出したダンサーなのだろう直感的に思えた。


◇◇◇◇◇◇


 休憩時間になって、園香そのかと真美が美和子と香保子と話していると千春がやって来た。そして、教室に誰かが置いてあったバレエ雑誌を二人に見せる。

 表紙を瑞希が飾っている。中は数ページを使って瑞希が特集されている。そして、別のページには青山青葉あおやまあおばバレエ団の舞台の写真があり美織と優一、すみれが主役を踊っている姿がある。コール・ド・バレエ(群舞)のセンターで踊る瑞希の姿。

「本当にすごい人たちなんですね」

 と驚いて見る。千春が美織たち四人を見ながら、

「そうよ。すご過ぎる人たちよ」

 と微笑む。


 向こうの方で、すみれたちは理央りおを呼んで何か話していた。一緒にいた美織が園香と真美に声を掛ける。


「園香ちゃん、真美ちゃん、このレッスンの後、理央ちゃんのキューピッド、ちょっと手伝ってほしいんだけど」

「はい、わかりました」

 園香と真美は顔を見合わせて頷く。

「あ、そうそう、真美ちゃんのキトリも見せてもらうんだったね」

「え」

 練習前に言っていたけれど、本当にいきなりだなと、少し驚く真美。


 美和子と香保子は、何のことだろう、という表情で園香たちに目を向ける。

「あ、この後、十月にある文化イベントの練習するみたい」

 園香が二人に言うと、美和子が、

「今日って、この後のレッスンも受けれるの?」

 と聞く。園香が驚いた表情で、

「それは全然問題ないと思うけど、急にえらく熱心ね」

 と言って微笑む。美和子と香保子も顔を見合わせて微笑んだ。


 その後、センターレッスンでも瑞希や美織が、美和子たちに対して親身にアドバイスする。

 センターで踊る美織や瑞希、すみれ、そして、優一の踊る男性の踊りも、美和子や香保子だけでなく稽古場にいる全員から拍手が起こるほどだった。

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