第284話 レッスン 北村

北村が鏡の前に立ちレッスンが始まる。すみれも美織みおりも他の者と同じようにレッスンを受ける。花村バレエに来るようになって、すみれも他の皆と同じようにレッスンを受けている。

 園香そのかや真美は東京に行ったとき、青山青葉あおやまあおばバレエ団のレッスンに参加させてもらった。その時のことを思い出す。

 その名門バレエ団バレエ学校の三階には、プリンシパルだけが入ることを許される場所と言われる稽古場がある。

 園香と真美は、そこでのプリンシパルたちのレッスンを見学させてもらい、そのレッスンに参加させてもらった。

 錚々そうそうたるプリンシパルたちが、皆同じバーレッスンのメニューで稽古をしている中で、すみれは一人、まったく自分のペースで調整するような練習していた。皆と同じレッスンメニューをしていたかと思うと、ストレッチや自分の調整したい部分を確認してみたり、普通のバレエ教室ではあり得ないレッスンの受け方をしていた。

 稽古場でレッスンをしているダンサーや、周りでレッスンの様子を見ている先生方の中には、すみれの大先輩やバレエ団において大御所と呼ばれる先生方もいた。

 そんなバレエ団の稽古場の中でも、すみれだけは自分のペースで調整することが許される存在だった。


 しかし、一転して、ここ花村バレエでは皆と同じようにきちんとバーレッスン、センターレッスンを受けている。

 それは、すみれが花村バレエの教師たちのレッスンの雰囲気を壊さないよう、バレエ教師たちを困らせることにならないよう、意識して、そうしているようにも見えたし、見方を変えると、それは花村バレエの指導者や生徒たちに敬意を表しているようにも見えた。


◇◇◇◇◇◇


 美和子と香保子かほこは他のレッスン生と比べると、まだまだ初心者感はあったが、真美との会話の後、以前よりも真剣な表情でレッスンを受けていた。


 稽古場でバーレッスンの時の並びとして、先頭に園香が付く、その後ろに真美がつく。いつも、この二人の場所は同じだった。その後ろは日によって、由奈ゆながついたり、奈々や佐和がついたりと、日によっていろいろな生徒がつく。

 今日は真美の後ろに理央りおがついている。その後ろに美和子と香保子が並んでつく。そして、二人の後ろに美織がつく。


◇◇◇◇◇◇


 バーレッスンは通常左右同じことをする。最初、左手でバーを持ち、右手を自由に動かせる向きから始める。足も右足を動かす動きから始める。

 一連の動きが終わると、体の向きを変え右手でバーを持ち、もう一度、同じエクササイズを反対の向き、左手、左足で行う。

 この時、バーの最後尾にいる人は体の向きを変えると先頭になってしまう。

 初めてレッスンを受ける人や慣れてない人が、遠慮して一番後ろについていると体の向きを変えたとき先頭になる。そうなると少し具合が悪い。

 なので一番前は園香、美和子と香保子を間に入れるようにして、一番後ろには美織がつく。

 センターバーの先頭には瑞希みずき、その後ろに千春たち大人クラスのレッスン生がつく。センターバーの一番後ろには優一、すみれがつく。


 先程、レッスン前に真理子とあやめが稽古場にやって来た。あやめはそのままレッスンに参加し、真理子は前で椅子に座って見ている。


 当然、美和子も香保子も、ここのバレエ教室のレッスンを受けに来ている者として、花村真理子を知らないわけがない。しかし、二人とも今までレッスンを受けてきて、真理子の受け持つレッスンを受けるときでなければ、真理子が稽古の様子を前で見るているという状況をあまり経験したことがなかった。

 園香の目には二人とも普段以上に緊張しているように見えた。

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