第282話 バレエはダンスの基本?

 皆がストレッチをしていると大学で会った美和子みわこ香保子かほこがやって来た。すみれや美織みおり瑞希みずきは誰だろうという表情をした。

「おはようございます」

 挨拶をしながら稽古場に入って来る二人に、近くにいた千春が声を掛ける。

「あら、美和子ちゃん香保子ちゃん久し振り。ミュージカルの練習頑張ってる?」

「はい、千春さん」

「あ、そうそう、美和子ちゃん、香保子ちゃん。紹介するね。この人たちバレエの世界では神様みたいなプロのダンサーたち」

 そう言って、すみれたちを二人に紹介した。すみれたちは微笑みながら会釈した。千春は続けて、すみれや美織、瑞希たちに、彼女たちが地元のジャズダンススタジオに通っていて、今度、ミュージカルに出るのだと紹介した。すみれたちも二人に改めてもう一度会釈した。


 そのときバレエ教師の北村が稽古場に入って来た。

「先生、今日は先生のレッスンですか?」

 千春が笑顔で北村に話し掛ける。

「ええ」と言いながら、すみれたちの方に目を向ける。

 すみれと美織が北村に微笑む。北村も、すみれと美織に頷いたように見えた。


 北村も美和子と香保子に気が付いて声を掛ける。

「あら、お久し振り。頑張ってるってね。偉いねバレエのレッスンも受けて」


 美和子が笑顔で、

「バレエはダンスの基本だから、できるだけ受けておこうと思ってます」

 香保子も合わせるように、

「そうそう、バレエはすべてのダンスの基本だからね」

 と言う。


 その言葉に瑞希が反応したのに気が付いた。何か言おうとした瑞希をたしなめるように美織が瑞希に目線を向けるが、それに気付かなかった真美が二人に言葉を返すように言う。


「いろんなダンスする人たちが皆口をそろえて言うなあ『バレエはダンスの基本』とか『姿勢がよくなる』とか、バレエが基本で役に立っとるん?」

「バレエをやってると、やっぱりいろんなテクニックが身に付くんじゃない?」

「ふうん、二人は役に立ってるん?」

 二人は首をかしげながら顔を見合わせ、

「実際、あんまり役に立ってないかな」

 と言って笑う。真美も微笑みながら、


「もしよかったら、ほんの少しだけ、役に立つかもしれんこと教えてあげようか」

「え、ええ」

 美和子と香保子が顔を見合わせる。二人は真美のこともよく知らない。すみれや美織、瑞希も顔を見合わせた。


「ごめんな、今日、学食で初めて会ったばかりの私が……ところでバレエはどれくらいやってんの?」

 真美が二人に聞く。

「毎日やってるわけじゃないけど三年くらい」

「え、三年? 結構、バレエ経験あるなあ。頑張ってるやん。役に立てんと勿体もったいないで」

 頷く二人に真美が続ける。

「そしたら、例えばやけど、バレエをやることで、ジャズダンスで、どんな風になりたいとかあんの? バレエをやっててやで、ヒップホップのノリができるようにとか思てここに来てないやろ。バレエ学んで、どうなりたいかや」

「それは綺麗に高くジャンプしたり、ピルエット何回転も回ったり」

 そう言って顔を見合わせる二人。

「なんか目的が男子やな『綺麗に踊りたい』とかちゃうんかい。まあ、ええけど」

 微笑む真美。

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