一九九三年 十月

第22章 文化イベントに向けて

第280話 十月になって大学のキャンパスで

 長い夏休みも終わり、十月、園香そのかは大学の授業が始まり少し忙しくなった。真美とは大学でも一緒にいることが多くなった。以前は真美も他の友達と変わりない友人の一人だったが、七月に一緒に東京に行ってい以降、園香にとって特別な親友になった。


 園香には同じ学部のクラスに真美の他にも関西出身の友達が数人いる。その関西出身の友人たちは、それぞれ大学に入るまで面識はなかったそうだが、大学に入ってから同じ学部で関西出身ということで意気投合したらしい。

 そんな関西出身者の輪の中に、なぜか地元出身の園香も入学当初からから入っている。入学して間もない頃、たまたま、ある授業で近くの席に座ったことがきっかけだった。

 真美の他に大阪出身者がもう一人いる。そして一人は神戸出身。最近になって、もう一人、その輪の中に入って来た祥子という友人は京都出身だそうだ。

 関西の生まれでない園香が、なんとなく関西弁ふうに喋ると「ちょっと違うな」とだけ言われる。訂正すらされない。どうやら、園香の関西弁ふうな一言を直したところで、すべてが直るわけではなく、一々指摘していたらキリがない。そもそも園香に関西弁をマスターしてもらおうとも思ってないようで「それ、ちょっと違うな」という一言で終わらされる。


 今日は園香と同じ学科の友人は皆午前中で授業が終わるので、昼食は学食で食べようということになった。皆それぞれにクラブ活動やサークル活動に頑張っている。

園香と真美は今日も午後からバレエのレッスンだ。この後、稽古場に行くことになる。昼食を食べていると、園香の高校時代からの友人である美和子と香保子かほこがやってきた。

「園香、久し振り」

「あ、美和子に香保子。久し振り」

 美和子と香保子は真美たちに会釈する。

「あ、この人たちは同じ学科の人たちなの」

 そして真美たちにも二人を紹介する。

「この二人は高校時代の同級生二人なの。二人は理学部なの」

 真美たちも会釈する。

「へえ、理系なんや」


「ねえ、園香、今日バレエ教室行っても大丈夫かな」

 美和子が園香に聞く。

「うん、大丈夫だよ。一時からオープンクラスのレッスンやってるから」

 園香が微笑んで言う。

「今、園香たちは公演練習してるんだよね。私たちも年明けにミュージカルの舞台に立つんだよ」

「言ってたね。頑張ってるみたいじゃない」

「私たちも花村バレエの公演観に行くから、私たちのミュージカルも観に来てよ」

「うん、観に行くよ」

「できたら、皆さんも」

 園香と一緒にいた面々が微笑んで頷く。

「また、言ってくれたらチケット買わせてもらうわ」

 皆、口々に楽しみにしていると言う。この友人たちは、結構、舞台鑑賞は好きなようで園香たちの公演も皆で観に来てくれることになっている。


「ありがとう。また、後でね」

 美和子と香保子が去って行った。


 真美が歩いて行く二人を見つめる。園香が真美に説明する様に、

「うちの教室、結構いろいろな人がレッスン受けに来るんだよ。ミュージカルやってる人とか、ジャズダンスやってる人とか」

「ああ、美香先生とこにも、そういう人来てたな。今日の一時のクラスって、結構、普通にバレエやってる生徒も多いやろ。失礼やけど、さっきの二人、あのレベルのレッスン付いてこれるん?」

「まあ、あの人たちのペースでやってるって感じだよ」

「ああ、そういうこと。今日のレッスンって誰のレッスンなん?」

「北村先生かな、また、美織みおりさんとかすみれさんにレッスンしてもらうのかな」

「ふうん。でも、ミュージカルに出るからバレエするなんて、それ、どう思ったらええの。あの人たち、すごい本格的なん?」

 真美が興味深々という感じで聞いてくる。

「いや、彼女たちの場合、まあ、いろいろ本格的にやってみたいって感じなんじゃないかな」

「ああ、本格的風(ふう)か?」

 納得する様に言う真美に、園香が頷きながら、

「そうそう『風(ふう)』よ」

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