第279話 九月の空港で

 空港に着き駐車場に車を止める。空港までの恵人けいととの時間は束の間の事だったが、園香そのかにとっては本当に楽しいひと時だった。恵人はどうだったのだろう。


「ありがとう。園香ちゃん」

「いえいえ」

「また、今度来た時もお願いしたいな」

「いいですよ」

 恵人のその一言が嬉しかった。


 もう着いている人たちもいた。優一や美織みおり、すみれも既に着いていた。タクシーで来た人達もターミナルの入り口に集まっている。見送りに来ているゆいや真由たちの家族もいる。全員そろったところで二階の出発ロビーに移動する。


 由香と一花いちかは衣装の事で、また週末に来ると言っていた。二人は真理子とあやめ、すみれと美織に、真美のスペインの衣装と文化イベントで理央りおが着るキューピッドの衣装のことで何か話している。

 昨日、晩ご飯の時、真理子とあやめは青葉あおばとおると、今後のスケジュールについて打ち合わせをしていたようだ。


 これから益々忙しい日々が続くことになる。九月のリハーサルが終わって、次にゲストダンサーたちが来るのは十月の最終週だ。その前に一部の花村バレエの生徒たちは県内の文化イベントでバレエを踊ることになっている。


 園香が恵人に話し掛ける。

「今度は十月の末なんだね。その後、来るのは十一月と十二月……三回しか一緒に練習する機会がないんだよね」

 少し沈んだ声で言う園香に恵人が微笑むように言う。

「いや、それが、多分もう少し来ることになると思うよ」

「え?」

「すみれさんと美織さんと優一さんに言われてるんだ。園香ちゃんとのパ・ド・ドゥもそうだけど『冬の松林の場』とか『ねずみとの戦いの場』とか他の絡みもあるから、ねずみの王様のげんさんと僕は個別に、もう少し来るようになると思う」

「え、そうなの」

 少し嬉しくなる園香。表情と声に気持ちが表れていたようで、恵人も微笑みながら言う。

「そんなに喜んでくれると嬉しいなあ。まあ、いつ来るのか詳細は未定だけどね。とりあえず、次は十月の最終週の末なんだ。その後、僕たちは青山青葉あおやまあおばバレエ学校の発表会が十一月の初めにあるんだ。ゲスト皆で高知に来るのは十一月は中旬だと言ってたね。バレエ学校の発表会が文化の日がある週の週末にあるんだ。それが終わったら、多分、僕は今よりずっと頻繁に来ると思うよ。ゲスト全員がそろって来る回数は限られてるけど、僕はとげんさんは、それとは別に、もっと来ることになると思うから……」

 微笑む恵人に園香も笑顔になる。

「私たちは文化イベントが十月第二週と第三週にあるの」

「忙しいね。それは見に来れないけど頑張ってね」

「うん」


 ゆいや佐和たち姉妹も佐由美や麗子たち青山青葉あおやまあおばバレエ団のダンサーたちと楽しそうに話をしていた。真美も康子と何か話していた。

 すみれと美織が青葉あおばとおる、真理子、あやめと話をしている。優一もげんや由香、一花いちかと話をしている。恵人と瑞希みずきが微笑みながら何か話している。

 園香が青葉あおばとおる古都ことげんのところに行って挨拶する。

「いろいろ忙しくなるようだけど頑張ってね」

 と青葉あおばが言ってくれた。他のゲストダンサーたちにも挨拶する。


「じゃあ、またね」

 恵人が優しい笑顔で握手してくれた。緊張で固まる園香を見て、隣で瑞希がクスッと笑う。


 飛行機の出発時間が近づいてきた。ゲストダンサーたち全員が搭乗口に向かう。


 こうして、九月のリハーサルが終わった。

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