第271話 花村バレエを応援してくれる人たち

 優一のすみれに関する話を聞いて、園香そのかと真美、恵人けいとや二人のあや寿恵としえも驚いた。隣のテーブルにいたゆい、真由、そして、唯と真由の家族も驚いて聞いた。唯たちと同じ席には青山青葉あおやまあおばバレエの康子や佐由美、麗子もいたが彼女たちでさえ初めて聞く話が多かった。

 一通りの話を聞いて、改めて、すみれが自分たちとは素質が違うバレリーナだと感じたが、やはり彼女自身の努力もすごかったのだろうと思った。


◇◇◇◇◇◇


 別のテーブルでは古都ことと由香と一花いちかのぞみしずかもいる。そして、このテーブルには花村バレエの北村、秋山、小林麗華こばやしれいかがいる。園香は、なんだか面白い組み合わせだなと思って見たが、何か楽しそうに話しながら食事をしている。

 花村バレエの小林麗華こばやしれいかは発表会や公演の時、生徒たちの衣装や小道具を管理してくれる。北村や秋山と一緒に、由香や一花いちかから衣装のことをいろいろ教えてもらっていたようだ。

 名門バレエ団の衣装専門のスタッフがこれほど頻繁に来て、話ができることはないことだ。それも由香と一花いちか青山青葉あおやまあおばバレエ団の衣装スタッフの中でも、衣装の最高責任者と言っていい二人だ。

 青山青葉あおやまあおばバレエ団の衣装の最高責任者には衣装監督の三原恵子みはらけいこという人がいるそうだが、聞いたところでは、近々、バレエ団を退団するそうだ。最近では、ほとんど顔を出していないそうで、いずれ近いうちに由香が引き継ぐことになっていると聞いた。

 つまり、今回、ずっと、花村バレエの公演に関わってくれている来生由香きすぎゆかは実質的に名門青山青葉あおやまあおばバレエ団の衣装の最高責任者ということになる。

 この公演では、そんな由香ともつながりができた。これから先、公演の後も、衣装の事で何かあったときは、由香にアドバイスをもらったり、あるいは衣装を作ってもらうこともできるのだろうか、園香はそんなことも思った。


◇◇◇◇◇◇


 その時、カランという音とともに、店のドアが開いて、スーツ姿の優しそうな男性が店に入って来た。真由が男性を見て、

「パパ」と言って微笑んだ。

 真由たち三姉妹のお父さんだ。この喫茶店エトワールにはよく来るようで、花村バレエの教室にも時々顔を見せる。

 真由の近くにいた皆が会釈する。園香も面識があったので挨拶する。

「こんにちは、佐倉さくらさん。頑張りゆうって聞いたで」

「はい」

 微笑みながら園香が返事をする。飾り気のない土佐弁で喋る真由のお父さんは、園香のことを佐倉さくらさんと呼ぶ。今回、園香が主役をするということも知ってくれている。


 青山青葉あおやまあおばバレエの面々や真美にとっては初対面だったが、花村バレエの皆にとっては顔馴染みだ。

 何しろ佐和、理央りお、真由の松井三姉妹のうち、中学生である一番上の佐和がキッズクラスにいた頃から花村バレエに顔を出している人だ。花村バレエで長くやっている人は皆知っていた。

 少し難しいところもある人と聞いていたが、園香から見て、それほど変わった人という印象はなかった。


 真由たちのお父さんは、青山青葉あおやまあおばバレエのゲストダンサーやスタッフ皆に丁寧に挨拶をしながら歩いて行く。その後を真由が嬉しそうに付いて行く。

 お父さんは真理子とあやめのところに行き、丁寧に挨拶する。真理子が一緒のテーブルに座っていた青葉あおばとおる、すみれ、美織みおりを紹介していたようだ。


「真由ちゃんのお父さんなんや」

 と真美が園香に聞く。園香が頷く。

「そうなんや。真由ちゃん、お父さん好きなんやね」

 と言って、真美が微笑む。


 一通り挨拶した後、真由のお父さんはカウンター席でマスターと千春さんと話しながら食事を始めた。


 真由が嬉しそうにテーブルに帰って来た。

 真美が真由に微笑みながら、

「優しいお父さんやね」

 と言うと、真由が嬉しそうに頷く。

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