第266話 青山青葉バレエ団・バレエ学校で言われていた

 青山青葉あおやまあおばバレエ団・バレエ学校で言われていた。


 青山青葉あおやまあおばバレエ団・バレエ学校にいてさえ、団員でなければ会うことさえできない人。団員でいてさえ、主役級のダンサーでなければ話すことさえできない人と言われたプリンシパルすみれ。青山青葉バレエ団の中でも神といわれたすみれ。


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 そのすみれが第一幕の最初から演技と振りを細かくさらう。一人一人にアドバイスしていく。客人の踊り、子どもたちの踊り。もう一度、三体の人形の踊りもさらう。ただし、後で、すみれがフォローできるところは手早く注意点を伝えるだけに留める。

 北村と秋山がすみれに付いてメモを取る。


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 すみれがげんに目を向けて微笑む。

げんさん、ねずみの王様お願い。恵人けいとも、くるみ割りの王子いいかな。クララの由奈ゆなちゃんも」

 そしてキッズクラス、小学生高学年から中学生、高校生まで、この場面に出演者が集められた。

 子ねずみのかわいらしい動きは、すみれも特に手直しすることがないという感じだった。というより、このキッズクラスの子たちには、あまり手を付けず他を調整しようという考えにも取れた。

 ねずみと兵隊人形の戦いの立ち回りを整理する。すみれのアドバイスで一人一人の動きがクリアになっていく。

 周りの動きが見やすくなったことで、ねずみの王様とくるみ割りの王子の動きもはっきりとわかりやすくなった。

 戦いの中で恐れながら走り回るクララ・由奈ゆなの動きも鮮明になった。


 それまでも出来栄えが良いと思って皆が見ていた場面の動き、流れが、一層整理されて見やすくなった。


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 雪の踊りも、もう一度さらう。この踊りは大勢で踊るが、寿恵としえ以外は花村バレエのダンサーばかりだ。個人個人の手直しはゲストダンサーがいない日でも練習できる。曲の中盤以降、曲が激しくなる部分でダンサーたちが吹雪のように移動しながら踊る場面がある。そこは寿恵が入った全員いる状況で動きを確認しておく。

 この作品のコール・ド・バレエ(群舞)で表現する第一幕の『雪の場』と第二幕の『花のワルツ』はともに、クララ、金平糖の精の園香そのかとくるみ割り王子の恵人けいとが出てきて、コールド(群舞)のダンサーの中を歩いたり、駆け回るような演出がある。

 つまり、大勢のダンサーにとって、自分たちが踊っている横を、園香と恵人の二人がすり抜けていくような演出がある。普段は優一が代役で入って確認しているが、やはり本番で踊る恵人に入ってもらいたいという思いは皆にあった。


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 休憩を入れず、続けて第二幕の指摘に入る。ディベルティスマンに入るまでの流れをもう一度さらう。


 ディベルティスマンについては『スペインの踊り』から気付いたところを、それぞれのダンサーに伝えていく。


 あやめととおるが踊る『アラビアの踊り』について気の付いたところを、すみれが指摘する。

 あやめの柔軟な踊りをより美しく見せるために、サポートする位置や、あやめととおるが美しく見える立ち位置などについてもアドバイスする。

 あやめと徹という二人に対して踊りの指摘をするなど、すみれでなければできない。あやめの踊り、徹のサポートの仕方を、すみれと美織みおりが二人に代わって見せ、二人が確認していく。


 あやめととおるが指導を受けている姿。あやめが指導を受けている姿を花村バレエの生徒、関係者は見たことがなかったし、とおるが指導を受けている姿は青山青葉あおやまあおばバレエ団のダンサーも見たことがなかった。

 園香と真美も知っているが、青山青葉バレエ団のレッスン中、すみれは後ろの方で一人自分のペースで調整している感じだった。人にアドバイスする姿など見たことがなかった。


 その後も『中国の踊り』『あし笛』とゲストダンサーが入っている踊りを重点的に指摘する。花村バレエのダンサーだけで踊る『トレパック』『キャンディボンボン』はゲストダンサーが帰った後でも練習できる。小さなゆいや真由にも優しく説明して、ゲストダンサーと踊る踊りを優先する。

 全員で『花のワルツ』『終曲のワルツ』まで確認して、その日のリハーサルは終わった。


 園香と恵人のグラン・パ・ド・ドゥは全体のリハーサルが終わってから、もう一度、復習するということになった。

 一旦、全員のリハーサルが終わった後、青山青葉バレエ団のダンサーと衣装の由香、一花いちか、そして、花村バレエの真理子、あやめ、北村、秋山の他、真美と由奈、なぜかゆいと真由、佐和、理央りおも見守る中でのリハーサルとなった。

 すみれと美織、優一の他、この踊りに関しては、真理子や青葉あおばげんとおるばかりでなく、康子や、佐由美、麗子まで様々なアドバイスをくれた。

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