第262話 リハーサル 花のワルツ

 すみれと古都こと美織みおり舞台袖ぶたいそでから大きくグリッサード、グランジュテと大きなジャンプにつなげる。

 続く様に、瑞希みずき、北村、秋山がグリッサードからグランジュテ。六人でテクニックを見せる場面だ。

 六人で合わせてバランセで少し後ろに下がりながら、体を反転させ、もう一度グリッサード、また体を反転させながらアッサンブレ。足を一歩出してランベルセからグリッサード、グランパデシャ……。


 彼女たちが踊っている踊りは、眺める様に見ていると、美しく優雅な動きとしか見えない。

 一つ一つのパ(バレエの動き)のつながり、ポーズや動き自体は比較的ゆっくり踊っているように見えるが、体の重心移動や、その軸を中心とした体の使い方、旋回、下半身の向きを固定したまま、上体の向きを大きく変える動きなど、実に繊細な体のコントロール、体幹の強さが要求される。

 見ているだけだと、比較的ゆったりと踊っているように見え、その難しさが分かりにくい。分かりにくいが、やってみると相当難しい。次の動き、次の体の向きを、一つ先、一つ先と、体で覚えて、意識して重心を移動させながら動かないと、振り回されたり、体の動きが止まる。


 こういう動きを見せられたとき、見ている者は『大したことをしていないように見えるがすごい』『よくわからないがすごい』と本能的に感じる。すごさを肌で感じる。

 この六人の踊りは、そんな複雑で難しい振りがずっと続く。


 この一見分かりにくい難しさが園香そのかや真美にはよくわかる。この高度なテクニックを要する難しい振り、強い体幹を必要とする振り付けに、花村バレエの北村、秋山が見劣りしないレベルでついていっている。


 このかん、生徒たちのレッスン前、レッスン後、美織と瑞希が丁寧に指導していたのを園香は見ていた。

 長年バレエをやって来て地元では有名といわれる花村バレエでバレエ教師として、コンクール組の生徒たちも指導してきた北村と秋山が、ストレッチや筋トレという基本的なところを一から叩き直されるような練習をしている様子を見てきた。

 その二人が、今、すみれや美織、古都こと、瑞希と踊って互角に見えるのはすごい。

 周りで見ている青山青葉あおやまあおばバレエの康子や佐由美、麗子たちも北村と秋山の踊りを驚いて見ているのがわかった。

 園香は稽古場のそでで、秘かに二人に拍手を送った。


 曲の中盤、優一、げんの他、今日は来ていないが青山青葉バレエ団の男性四人が入って華やかな踊りになる。すみれ、美織、古都こと、瑞希、そして、北村、秋山に加え、男性六人の十二人で高度なテクニックとクラシックバレエの正確なポジションで気品高く踊るとなる。


 曲の終盤には周りにいたディベルティスマンのダンサー『スペインの踊り』から『キャンディボンボン』までの全員が加わって踊り『花のワルツ』が終わる。


 踊り終わり、ディベルティスマンのダンサーと『花のワルツ』の出演者数人が舞台の周りに残る。ゆいたちキャンディのメンバーも、また舞台のそで近くに座る。


◇◇◇◇◇◇


 美しいハープの音色とゆっくり弦をはじく低い音色。この作品の主役の踊りの導入を奏でる。


――――――

〇アッサンブレ

片足で踏み切ってジャンプし、空中で両足を集めてそろえ、両足で着地するジャンプ。


〇ランベルセ

右回転のランベルセの場合、左足軸に立つと同時に右足アチチュードで体を右回転させる。この時状態は少し左に倒すようにしながら回転する。


〇バランセ

ワルツのリズムで足を踏みかえながら体の重心を移動させる。左右、または前後に振り子のよう揺れるような動き。腕も使い、優雅に、あるいは力強く表現する。

このときリズムは一、二、三、一、二、三……と三拍子でリズムを取るが「一」にアクセントを置いて三拍子を取る。

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