第260話 リハーサル キャンディボンボン 唯、真由

 キャンディボンボン

 キッズクラスの生徒たち


 キッズクラスの子どもたちが元気に踊る『キャンディボンボン』は、すみれや美織みおりの目から見ても子どもらしく可愛らしい踊りに仕上がっている。すみれたちになついているゆいや真由ばかりに意識がいきがちだが、他の子たちの踊りも十分レベルが高い。


 曲の始まりは二組に分かれて舞台袖ぶたいそでから登場する。最初に登場するグループは小学生低学年の生徒たちだ。キッズクラスの中では年齢の高い子たちが先に舞台に出てくる。すみれが見つめるなか、曲に合わせて元気に出てくる。


 次のグループでゆいと真由が登場する。曲通り、一つ一つの踊りを丁寧に、そして、表現力豊かに踊るキッズクラスの子どもたち。

 しかし、すみれには、この踊りを衣装に負けるような踊りで終わらせてはいけないという思いがあった。

 すみれがジゴーニュおばさん役の美織みおりに目配せする。かすかに頷く様な表情を見せた美織。


 美織はキャンディボンボンの子どもたちに、一層、生き生きと表現しやすいように、積極的に子どもたちに語り掛けていく。子どもたちもジゴーニュおばさんに語り掛け、踊りに誘う様な仕草で、美織の手を引き溢れるような笑顔で踊る。

 周りで見ていた者の目には、キャンディの衣装、ティアラが輝きを増したように思えた。

 美織とキッズクラスの子どもたちの掛け合いが輝きを放つ。教室でのリハーサルだが、まるで舞台で照明を浴びて踊っているような空気に包まれた。


 衣装係の由香と一花いちかが、すみれと美織に微笑み頷いた。


 園香そのかも真美も驚いた。何なのだろう……彼女たちの魔法のような連携は、そんなことができるのかと声を失う。

 この一瞬の、すみれと美織の掛け合い、そして、美織の小さな子どもたちの表現を誘導する技量は、バレエ未経験の見学席のお母さんたちにもわかったようだ。

 お母さんたちの間から、すみれと美織に向けた拍手が送られた。


 曲の終盤、キッズクラスの子どもたち全員がこぼれる程の笑顔で踊る。ゆいと真由もきらきらした笑顔で踊る。


 それを横目に、由香と一花いちかが拍手を送りながら、稽古場の隅、舞台袖ぶたいそでになるところで『花のワルツ』の衣装の準備にかかる。すみれと古都ことも、由香と一花いちかのところに行き、何か打ち合わせる様に話す。


 次の曲は『花のワルツ』だ。美織みおり以外の『花のワルツ』のダンサーたちは、既に衣装を身に纏っている。

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