第252話 休憩時間 金平糖の精、キャンディ

 出演者たちが第二幕のリハーサルの準備に入る。第一幕の衣装から第二幕の衣装に着替える。第二幕ではクララがお菓子の国に行って楽しく過ごす場面になる。


 今回の演出ではクララ役の園香そのかが王子役の恵人けいとにお菓子の国に連れて行ってもらい、お菓子の国の妖精たちの歓迎を受け、楽しいひと時を過ごすという設定だ。

 出演者たちは、それぞれの踊りの衣装を着て準備する。


◇◇◇◇◇◇


 バレエ『くるみ割り人形』の二幕の演出として、主人公のクララがお菓子の国の女王『金平糖の精』の歓迎を受けるという演出と、お菓子の国に行くクララ自身が『金平糖の精』として迎えられ王子と踊るという演出がある。

 様々な形の演出があるが、クララと『金平糖の精』が別人という設定と、クララと『金平糖の精』が同一人物という設定がある。

 今回の花村バレエの公演の演出では、第一幕の『冬の松林』の場で、子どものクララ・由奈ゆなから大人のクララ・園香そのかに代わるが、第二幕でクララ役の園香そのかが『金平糖の精』として迎えられ王子と踊る演出としている。クララと『金平糖の精』は同一人物という設定だ。

 第一幕で『雪の精』たちに見送られ、お菓子の国にやって来た園香は、第二幕の時点で『金平糖の精』として登場し『お菓子の精』たちの歓迎を受け、最後に王子と一緒に踊る。


◇◇◇◇◇◇


 園香は一幕と二幕の休憩の間にクララの衣装から『金平糖の精』の衣装に着替える。東京の青山青葉あおやまあおばバレエ団の衣装室でも着させてもらった『金平糖の精』の衣装。こうして見ると、改めて、その美しさに見惚みとれてしまう。

 園香が衣装を着ていると由香と一花いちかが手伝いに来てくれた。由香が手際よく衣装の背中を縫う。ティアラを一花いちかが付けてくれる。衣装が整い、園香が稽古場に現れると、稽古場にいた出演者の生徒や見学席にいたお母さんたちから、

「おお!」「綺麗……」「すごい」

という感嘆の声が漏れる。

 真理子とあやめもやって来て衣装を見る。

「すごくいいじゃない」

 と微笑む。


 キャンディの衣装を着たゆいもやって来て、

「きれい」

 と言いながら、自分のキャンディの衣装も見て欲しいという様に、頭に付けてもらったティアラに手を添え嬉しそうに微笑む。

ゆいちゃん、キャンディ、すごく綺麗で可愛い」

 と園香が言うと嬉しそうにスキップをしながらキッズクラスのみんなのところに行った。


 衣装を着たキッズクラスの子たちは、見学席の方で、お母さんたちの撮影会が始まった。みんな子どもたちの姿を写真に撮って、子どもたちもお母さんたちも嬉しそうにしている。

 そういえば、さっきの子ねずみの衣装の時も写真を撮っていたなと、園香は微笑みながら見た。可愛らしいキッズクラスの子たちの衣装を着た姿は、お母さんじゃなくても園香や大人クラスのレッスン生たちも写真を撮りたい気持ちになる。

 花村バレエの先生たちも、それぞれの衣装を着た出演者の写真を撮っていた。


 すみれも周りの様子を見て微笑みながら由香と一花いちかに、

「あなたたちは自分たちの作った衣装やティアラを付けたダンサーたちの写真を撮っとかなくていいの?」

 と聞くと、

「まだ、本番まで手直しするかもしれないから、公演の本番前にメイクもしたところで全員の衣装を撮らせてもらうわ」

 と微笑む。

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