第250話 九月通しリハーサル第一幕 雪の場へ

 園香そのかはいろいろ注意されるかと思ったが、今は衣装付きの通しリハーサルということもあり、そのまま次の『雪の場』につながっていく。

 今回は衣装を着替えたり、踊りと踊り、場面と場面のつながりを、出演するダンサーたち自身は、もちろんのこと、衣装係スタッフも、そして、手伝ってくれるお母さんたちにも知っておいて欲しいという真理子たちの意図があった。

 全体の流れという点においては、真理子や青葉あおばとおるの三人も、改めて、きちんと理解しておきたかった。


 園香そのか恵人けいとが『冬の松林の場』を終えたところで、かぶせる様に『雪の場』が始まる。二人のいる所に『雪の精』の一人目、瑞希みずき一片ひとひらの雪としてかろやかに舞台に飛び込んで来る。美しいフルートの音色に合わせ舞うなか、次のフルートの音色で二人目の寿恵としえが入って来る。

 舞台を通り過ぎる様に瑞希が去って行き、寿恵が去って行く。


 フルートが奏でる音色は、雪が一片ひとひら一片ひとひらと空から舞い降り始める……そんな情景を美しく表現する。

 この『雪の場』の曲の始まりは、冬の夜の雪、その寒さと静けさを聴く者、観る者にこれ以上ないほど印象付ける。


 次々と雪の精が天から舞い降りる様に舞台でかろやかに踊る。そして、四方から集まってくるように雪の精が舞い降りてくる。

 園香と恵人が降ってくる雪を見上げる様に雪野原ゆきのはらで踊りながら舞台を縦横に駆ける。そして、いつしか『雪の精』の群舞になる。


 雪の場のコール・ド・バレエ(群舞)は美しい。美しいが曲のテンポが速く、大人クラスのレッスン生は、振り付けられたばかりの頃は、頑張ってもなかなか付いていくのが難しかった。しかし、今は付いていけている。練習を重ね振りが身に沁みついてきた感じだ。細かい注意点は、まだまだあるだろうが、全員が違和感なく踊れている。


 この踊りには佐和と理央りおの二人も入る。最初から雪のコールドに入ることは決まっていたが、他のメンバーより練習が遅れているのが気になっていた。

 しかし、練習を始めて間もないが、既に他のダンサーと同じレベルで踊れるようになっている。これには美織みおりやすみればかりでなく、青山青葉あおやまあおばバレエ団のダンサーたちも驚くばかりだった。


 終盤、激しい曲に合わせて全員が入り乱れ吹雪の様に踊る。ここでも佐和と理央りおは他のダンサーに見劣りしないばかりか、瑞希みずき寿恵としえのレベルに付いていこうという気迫を感じさせるほどの踊りを見せる。二人の踊りは少なくとも練習に遅れて入ったことをまったく感じさせない。


 そして『雪の場』の最後はコーラスに合わせて、クララ役の園香そのかと王子役の恵人けいとがお菓子の国に旅立っていく。

 本番当日は二人が旅立っていくところで、舞台いっぱいに細かい紙吹雪の雪を降らせるという。ドラマティックで美しい白銀の世界を演出するなか第一幕の幕が閉じる。


 一旦、幕が閉じた後、もう一度、幕が上がり『雪の場』に出演していた全員が客席にルベランス(お辞儀)をする。

 クララ役の由奈ゆなと園香、王子役の恵人、ドロッセルマイヤー役の優一も出て来てルベランス(お辞儀)をする。


 雪のメンバー全員と由奈、園香、優一がお辞儀をして幕が下り第一幕が終わる。

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