第248話 九月通しリハーサル第一幕 ねずみと兵隊人形の戦い

 クリスマスパーティーの三体の人形の踊りが終わった後、ゆいや真由たちキッズクラスの生徒は最初の方でドロッセルマイヤーからクリスマスプレゼントをもらう。

 その後、クララがドロッセルマイヤーから『くるみ割り人形』をもらい、フリッツに人形を壊されたりというやり取りの後、客人が屋敷から帰る場面になる。

 ゆいや真由たちキッズクラスの生徒たちは、この場面の後、ねずみ役として舞台に登場することになっている。キッズクラスの生徒たちは屋敷から帰る場面を演じて、早々に舞台からハケ、大急ぎで、ねずみの衣装に着替えることになる。ここもあまり時間がない。

 キッズクラスの生徒や小学生たちがハケた後、舞台ではクララたちドロッセルマイヤーの一家が客人を見送り、クララがベッドに入って眠るシーンがある。比較的ゆっくりと間を持たせる演技になるのだが、ゆいや真由たちがハケて、次に、ねずみの衣装で舞台の袖に準備するまでの時間は三分少々といったところ。


 ゆいや真由の子ねずみの衣装はそれほど着る物もない全身タイツだ。グレーの全身タイツで、頭にねずみの耳の付いたフードをかぶる。

 それでもキッズクラスの全員が楽屋まで帰ってきて着替えて、次の出番に備えるのに三分少々というのはかなり時間が短い。

 本番当日は着替える時間がないからといって、舞台のそでで着替える訳にはいかない。人数も多いので全員が舞台袖ぶたいそでで着替えると他の出演者の邪魔になる。

 一旦、楽屋まで帰って着替える。急ぐとはいっても、小さい子たちだ。走って怪我でもしてはいけないので、走らせるわけにはいかない。バレエ教師や周りの者も子どもたちに「走らないで」と注意する。楽屋に帰ってきたら、急いでお母さんや周りのスタッフで着替えさせる。最初に舞台に出るのは、ゆいや真由たちキッズクラスの子ねずみたちだ。兵隊人形の子どもたちも、子ねずみたちに道を開ける。


 今日のリハーサルでも楽屋までの移動を考えて、由香や一花いちかが時間を計る。ここは劇場ではないので楽屋はないが、楽屋を想定してキッズクラスの生徒たちは見学席で着替える。

 すみれや美織みおり、当日手伝いに来る康子や佐由美、麗子、彩、カアヤも子ねずみたちの手伝いに入る。

 さすがに青山青葉あおやまあおばバレエ団のメンバーは手際が良い。キッズクラスの生徒たちが着替え終わったところで、由香と一花いちかが全員の衣装をチェックする。

 舞台袖ぶたいそでは暗い。細かいチェックは楽屋でしておく。チェックが終わったら、子ねずみの出演者全員を一斉に舞台袖ぶたいそでまで連れて行く。小さい子がバラバラ行動すると、舞台袖ぶたいそでに行ったとき、誰かいなかったり、他の出演者の邪魔になったりする。


◇◇◇◇◇◇


 キッズクラスの子ねずみたちが舞台袖ぶたいそでに勢ぞろいする。全員が余裕を持って間に合った。


 夜の大広間。鐘の音とともに、可愛らしい子ねずみたちが登場する。ちょこちょこと広間を走り回る子ねずみたち。


『くるみ割り人形』を探して広間にやって来たクララ。そこでクララは、大きくなるクリスマスツリーに驚きます。そして、ねずみたちと鉢合わせになります。ねずみたちはクララと同じ大きさです。驚くクララ。クリスマスツリーが大きくなっていたのではなく、自分の体が小さくなったのだと気付きます。


◇◇◇◇◇◇


 クララの前に子ねずみばかりでなく大きなねずみたち、そして、ねずみの王様が現れます。ねずみの王様役のげんは、ここでも独特の雰囲気を醸し出します。威厳、妖艶、力強さ、ねずみたちを従えたねずみの王様。

 怯えるクララの前に『くるみ割り人形』恵人けいとが現れます。恵人けいとはくるみ割り人形の醜い仮面を付けて現れます。くるみ割り人形は兵隊人形たちを従え、ねずみたちと戦います。

 クララがねずみの王様にスリッパを投げつけます。それに驚いたねずみの王様。その隙にくるみ割り人形は王様をやっつけます。

 ここは複雑な動きも伴う戦いの場面にもかかわらず、いつも練習の時から比較的問題なく全員の動きがスムーズに流れる。


 戦いが終わって『くるみ割り人形』の魔法が解ける。


 いよいよ、この後、園香そのかの出番だ。園香はあまりに完成された『ねずみと兵隊人形の戦いの場』のリハーサルに思わず、我を忘れて見入っていた。

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