第246話 九月通しリハーサル第一幕 人形たちの踊り

 大広間で、たくさんの子どもたちと、大勢の大人の客人たちが踊る。

 ドロッセルマイヤーが子どもたちを楽しませるために三体の人形、ハレルキン、コロンビーヌ、ムーア人を披露する。


 最初に登場するのはピエロのようなハレルキン。ドロッセルマイヤーに促され、ハレルキンを演じる木島樹きじまいつきを、ゲストダンサーの雪村希ゆきむらのぞみ月原静つきはらしずかが運んでくる。衣装を着て緊張しているいつきに、のぞみが運びながら声を掛ける。

「頑張ってるね。見るたびに上手くなってるよ」

 しずかも微笑みながら、

「思いっきり踊るといいよ」

 と言う。思い掛けない二人からの言葉に、いつきの緊張は一気にほぐれた。いつきが二人に微笑み返す。

 衣装付き通しという緊張の中で、いつきは普段より伸びやかに踊れた。周りで見ている出演者たちにもそれが分かった。とおるがあやめに「彼、よくなってるよ」と囁く様に言う。

 こういう空気は次に踊る玲子れいこひかるにも伝わる。


 続いて、コロンビーヌの森岡玲子を瑞希みずきとゲストダンサーの寿恵としえが運んでくる。

「頑張ってね」瑞希が運びながら玲子に話し掛ける。

「いつも通りね」寿恵も微笑みながら声を掛ける。

 玲子がかすかに頷く。

 優一が玲子に微笑み、ステッキで魔法をかけると、玲子もそれに応えるように可愛らしいフランス人形を思わせる生きとしたコロンビーヌを表現する。


 最後に、ムーア人の遠藤光えんどうひかるのぞみしずかが運んでくる。希と静は、光に対しても笑顔で話し掛けながらゆっくりと運ぶ。

古都ことさんが褒めてたよ。光君ひかるくんのムーア人」希が微笑む。

「ムーア人は盛り上がるから頑張ってね」静も笑顔で声を掛ける。

 古都ことが褒めているという言葉は光にとって大きな自信になった。最初に、この振りを振り付けてくれたのは古都ことだった。その時は、ほとんど踊れず、それを見た古都ことが励ますように声を掛けてくれた記憶があった。

 光がムーア人の踊りを大きく堂々と踊って見せる。周りの客人たちも、そのダイナミックな踊りに驚いた。踊り終わった時、古都ことげんが微笑みながら拍手してくれているのが見えた。


 真理子や青葉あおばも三人の踊りの仕上がりに満足している様子で拍手をしながら話していた。


 舞台はドロッセルマイヤーが子どもたちにクリスマスプレゼントを渡す場面に続く。

 クララがドロッセルマイヤーから『くるみ割り人形』を受け取る場面だ。

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