第243話 バレエ『くるみ割り人形』を見る前に ~その前にある話~

 リハーサルが始まった。幕前まくまえとおるのナレーション。リハーサルの準備をする出演者が全員その話に聞き入った。


◇◇◇◇◇◇


『くるみ割り人形』の話 ~ バレエ『くるみ割り人形』の前にあるお話


 昔々、ニュールンベルグのの近くにあった国の出来事です。王様とお妃様きさきさまの間に可愛らしい王女様が生まれました。

 王様とお妃様きさきさまは、その子をピルリパート姫と名付けました。

 あるとき、この国に王子が訪れることになり、歓迎会を開くことになりました。王様はお妃様きさきさまが作るソーセージが大好物でした。この時もお妃様きさきさまにソーセージを作る様に言います。

 お妃様きさきさまが調理場でソーセージを作っていると、その美味しそうな匂いに誘われて、宮廷に住み着いたネズミのマウゼリンクス夫人がやって来て、そのソーセージを欲しがりました。

 親切なお妃様きさきさまはマウゼリンクス夫人にソーセージを分け与えます。マウゼリンクス夫人の周りにいたネズミたちもソーセージを欲しがり、ソーセージがわずかしか残りませんでした。

 王様はソーセージが少なかったことに腹を立てます。王様はマウゼリンクス夫人のことを知り怒ります。

 そして、宮廷の時計職人ドロッセルマイヤーを呼んでネズミたちを退治させます。ドロッセルマイヤーは仕掛けを作りネズミを退治してしまいます。

 それを知って怒ったマウゼリンクス夫人はピルリパート姫に呪いをかけると告げます。


 お妃様きさきさまは心配して、姫を守る様に侍女や兵隊たちに言いつけますが、ある日、不意を突いてマウゼリンクス夫人はピルリパート姫に呪いをかけ醜い姿に変えてしまいます。


 王様は怒りと悲しみに暮れます。そして、またドロッセルマイヤーを呼びます。王様はドロッセルマイヤーに、姫の姿をもとに戻す方法を見つけるよう命じます。


 ドロッセルマイヤーはあらゆる手を尽くして魔法を解く方法を探します。


 そして、ついに、その方法を見つけます。それは『クラカトウクのくるみ』という大砲をもってしても砕けないという『くるみ』を割って、その実を姫に食べさせることでした。

 更に、その『くるみ』は、若い男が姫の前で割り、その実を姫に差し出さなければならないというものでした。


 ドロッセルマイヤーは『くるみ』を探します。やがて、ドロッセルマイヤーは『クラカトウクのくるみ』を持っているという人物に出会います。

 それは、なんと、彼のいとこで天文博士のドロッセルマイヤーでした。いとこのドロッセルマイヤーには若い息子がいました。


 いとこの息子である若いドロッセルマイヤーはお妃様きさきさまのところに行き、たくさんの人たちの前で『クラカトウクのくるみ』を割り、姫に差し出しました。姫がその実を食べると魔法は解け、ピルリパート姫はもとの美しい姿に戻りました。

 集まった人々は大喜びです。


 ところが、姫の魔法を解いた若いドロッセルマイヤーは、そこに現れたネズミのマウゼリンクス夫人を踏みつけてしまいます。

 マウゼリンクス夫人はもがき苦しみながら死んでしまいます。死の間際にマウゼリンクス夫人は若いドロッセルマイヤーに呪いをかけます。

 なんと、姫にかけていたのと同じ魔法でドロッセルマイヤーを『くるみ割り人形』に変えてしまいます。さらに、怒りが治まらないマウゼリンクス夫人は苦しみながら「いつか私の息子がかたきをとるぞ」と言い残して死んでいきます。


 王様はこのドロッセルマイヤーとマウゼリンクス夫人とのやり取りを見ていませんでした。そればかりか若いドロッセルマイヤーがいなくなったことと、醜い『くるみ割り人形』の姿に怒り、ドロッセルマイヤーたちを追い出してしまいます。


 いとこの天文博士のドロッセルマイヤーが占いによって、魔法が解ける方法を見つけます。

「呪いを解く方法は、この醜い『くるみ割り人形』の姿のままで、女性から愛され、マウゼリンクス夫人の息子である『ねずみの王様』を倒すこと」


 ドロッセルマイヤーは『くるみ割り人形』になった若いドロッセルマイヤーを大切に、魔法を解いてくれる女の子を探します。


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