第239話 休憩時間 園香と由奈と恵人

「すごく息が合ってるね。いい感じじゃない」

 康子の感心する言葉に、隣で見ていた美織みおりも言葉を添える様に言う、

「たくさん練習してるもんね。でも、せっかく恵人けいとが来てるときは恵人とも合わせときなよ。遠慮しなくていいからさ」

 と微笑む。

「それはねえ、そうは言っても、恵人は、たまにしか来ないから、園香ちゃんたちの方からは声を掛けにくいのよね。美織にとっては恵人は後輩だから、なんでもないことなんだろうけど」

 康子が言うと、

「ええ、そんなこと気にしなくていいよ。由奈ゆなちゃんも『一緒に踊ってください』って言ったら、すぐ踊ってくれるから」

 と美織が笑いながら恵人を呼んできてくれた。


 三人で踊りを合わせる。その姿を美織が見つめながら、園香と由奈に言う。

「普段は、恵人の代わりに優一が同じ踊りを一緒に踊ってくれるけど、回数は少なくても、やっぱり、こうやって、本番で踊る恵人と踊っといた方がいいよ。その方が不安や緊張も少なくなるでしょう。踊れるときは遠慮しないでね。二人とも」

 恵人も頷く。

「そうそう、本当に気軽に声を掛けてもらっていいからね」

 美織が恵人の方に目を向け、少し睨むようにして微笑みながら、

「どうせ、げんさんたちと、どうでもいい話をしてたんでしょう。恵人も、恵人の方から『踊ろう』って声掛けてあげなさいね」

「は、はい」


 三人で『冬の松林の場』の踊りを合わせる。康子の目から見ても思った以上に完成度が高い。

「すごいじゃない。二人とも当然わかってると思うけど、ここはこの『くるみ割り人形』の演出では物語が転換するとても大事なところだから大切に踊ってね。でも、本当によくできてるよ」

 康子に褒められて園香と由奈が顔を見合わせて微笑む。


 その後、リフトやターンのサポートなど細かいところをもう一度確認する。由奈と恵人が踊るときは、美織や康子と一緒に園香も二人の踊りを見る。そして、園香と恵人が踊るときは、美織たちと一緒に由奈が二人の踊りを見る。

 恵人となごやかな雰囲気で合わせる。リハーサル中も気さくに話し掛けてくれる恵人は、園香と由奈の二人にとっても、とても踊りやすいパートナーだった。恵人が二人に優しく言う、

「いつも、優一さんとかなり練習しているんだよね」

「うん」「はい」

 園香と由奈が返事をする。

「そう、この前より格段に上達してる。すごくサポートしやすいよ」

と微笑みながら言ってくれた。

 一通り『冬の松林の場』の踊りを合わせ終わった頃、午後の通し練習が始まる時間が来た。


 真理子が声を掛け全員が集まる。青山青葉あおやまあおばバレエ団のゲストダンサー、今回スタッフとして参加してくれる人たちも全員集まった。

 第一幕から第二幕の最後まで衣装を着けての通しリハーサルが始まる。

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