第238話 休憩時間 園香と由奈

 休憩時間、園香そのかが一幕『冬の松林の場』の振りを鏡の前で確認していると、緊張した様子の由奈ゆなが近くにやって来た。この後、始まる衣装付きのリハーサルを前に緊張が隠せない。園香が由奈に話し掛ける。


「由奈ちゃん、一幕のクララ順調そうね。とてもよくできてるよ」

「園香さん、いつも見てくれて、ありがとうございます」

「そんな、そんな、一幕の演技大変じゃない?」

「まあ、でも、美織みおりさんや瑞希みずきさん、すみれさんがいつも優しく教えてくれるから」

「でも、そのアドバイスに付いて行ってるのが、なかなかすごいと思うよ」

「そんなことないですよ。付いて行くのが精一杯……付いて行けてるかも怪しいですけど、なかなか先生方の思ってらっしゃるようには演技や踊りができてないです」

「できてるよ。自信もっていいと思うよ。あと、信也しんや君のフリッツも、なかなかいい味だしてるよね。由奈ちゃんと信也君の二人の掛け合いもいいと思うよ」

「すごく、演技しやすいんですよ」

「そうなんだね」

 園香が笑うと、由奈もリラックスしたようで微笑んだ。


「由奈ちゃんと私が入れ替わるところの場面やってみようか」

「はい」

 鏡の前で二人で踊りの細かいところを合わせていると美織みおり康子やすこというダンサーと一緒にやって来た。康子が微笑みながら声を掛けてくれた。

「あなた、クララ役の由奈ちゃんね。とても上手に踊れてるわよ。演技も上手よ」

「ありがとうございます。え、と、三島康子みしまやすこさんですよね」

「うん、三島康子。康子って呼んでもらっていいから」

「康子先生って呼ばせて頂いていいですか?」

「うん、まあ、先生かどうかわからないけど……美織みおりとか瑞希みずきも先生って呼ばれてるの?」

 と康子が美織の方を向く。園香が間髪入れず、

「もちろんです」と言う。

「そうなの。じゃあ、私もそう呼んでもらっていいのかしら」

「いいも何も、康子先生じゃないですか」

 康子が照れくさそうな表情をする。そんな康子に由奈が微笑みながら、

「康子先生、青山青葉あおやまあおばバレエ団の『白鳥の湖』で『スペインの踊り』を踊ってましたよね」

 と言う。康子と美織が驚いた表情で顔を見合わせる。

「え、よくわかったわね。すごい」

「はい、私『青山青葉あおやまおばバレエ団』も『白鳥の湖』も大好きなんで、誰が、どの踊りを踊るか注目して見てたんです」

「へえ、ありがとう。そういえば、由奈ちゃん、七月に青山青葉あおやまあおばバレエ学校のレッスンも受けに来てたわね」

「はい、とても勉強になりました」

「それはよかった。あのときは、本当に上手な子だなって思ったよ。あ、練習、続けて」


 由奈と園香が踊りの練習を続ける。

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