第236話 九月のリハーサル 子ねずみとねずみと兵隊人形

 この後、場面はねずみの王様が率いるねずみたちと、くるみ割り人形が率いる兵隊人形の戦いになる。ねずみの王様はげんが演じ、くるみ割り人形は恵人けいとが演じる。ねずみ、兵隊人形はそれぞれ、キッズクラスから高校生までの生徒たちが演じる。


 小さなグレーの全身タイツを着て、頭に小さな耳を付けたゆいと真由。

 キッズクラスの小さい子たちが、ちょこちょこと歩き回る姿が可愛らしく小学生から大人クラスまでの生徒ばかりでなく、青山青葉あおやまあおばバレエ団のダンサー、スタッフからも笑顔がこぼれる。

 すみれと美織みおりも思わず、

「かわいい」

 と微笑む。

 理央りおや小学生の兵隊人形も可愛らしかった。

「バレエ教室の公演は、これが可愛いのよね」

 瑞希みずきが呟く。

「え、唯ちゃんたちですか」

 園香そのかも思わずその可愛らしさに微笑みながら、瑞希に聞く。

「そうそう、バレエ団は、どうしても大人が演じるようになるから。バレエ学校の生徒さんにお願いしても、もう少し大きい小学生、中学生からになってしまいがちなんだよね」

「へえ」

「どうしても、戦いのシーン、小さい子の可愛らしさより、戦いのリアルを求める傾向があるから、でも、バレエ教室だと、この場面って、結構、小さい子を出演させられる可能性があるところだと思うのよね。実際、今回の花村バレエもキッズクラスの子に出演してもらってるし」

「そうなんですよね。ここの公演でも、一番小さいゆいちゃんと真由ちゃんに出てもらってる……演技の可愛らしさが注目されると思うんですよね」

 瑞希が微笑みながら、

「演技の可愛らしさ……って、舞台を動き回るだけで、かわいいよね」


 ねずみの王様を演じるげんはねずみのかぶり物を被っている。小さな子ねずみのゆいと真由が、ねずみの王様の前で立ち止まって固まる。


げんさん、めっちゃ怖がられてるじゃん」

 後ろから瑞希の声がした。

 げんが唯と真由の頭を撫でようと手を伸ばすと、唯と真由は瑞希の後ろにサッと隠れる。

 二人の後ろから美織みおりとすみれの笑い声が聞こえる。

「唯ちゃん、真由ちゃん。大丈夫よ。げんさんよ」

 そう言われて、二人はもう一度、ねずみの王様の方を見る。


「ねずみの王様?」

 と言う唯に、美織とすみれが微笑む。唯と真由は、もう一度、恐る恐る、ねずみの王様の方を見る。ねずみのかぶり物を取って、微笑むげんにやっと安心した様に唯たち二人も微笑む。


◇◇◇◇◇◇


 ねずみたちと兵隊人形たちの戦いの場

 クリスマスパーティーが終わって、夜中の大広間。

 クララが大広間に行くと、小さな子ねずみたちがちょこちょこと走って来る。唯と真由が演じる子ねずみ。

 その後、次々と走り回る子ねずみたち。驚いていると段々大きいねずみたちが出てくる。クララがねずみたちを恐れながら逃げていると、やがて、げんが演じる、ねずみの王様が現れる。

 そこへ、くるみ割り人形の恵人が兵隊人形を従えてやって来る。

 くるみ割り人形率いる兵隊人形たちと、ねずみの王様率いる、ねずみたちとの戦いが繰り広げられる。

 最後はくるみ割り人形が、ねずみの王様を倒して戦いが終わる。


 この場面を曲で通して演じ終わった後、とおると真理子、青葉あおば、優一が兵隊人形とねずみたちの出演者にアドバイスする。

 すみれと美織みおりが戦いの最中のクララの演技を由奈ゆなにアドバイスする。すみれと美織が由奈にクララの演技をやって見せる。

 この場面は出演者が多く、出演者たちの動きも複雑にはなるが、比較的に手直しするようなところもなく、今の時点で、そこそこ完成度は高かった。注意点もいくつかあったが、主に、くるみ割り人形の恵人けいととねずみの王様のげんが演じる二人の立ち回りの確認が中心となった。この二人の動きを中心とした周りの動き、流れの確認という感じになった。

 そして、すみれと美織が由奈の演技を指導する程度で、全体に対しての注意はあまりなかった。


 この後、ねずみの王様を倒したくるみ割り人形の魔法が解け、クララとくるみ割り人形の踊り『冬の松林の場』につながる。

 ここまでクララを演じてきた由奈と園香が入れ替わる。

 そして『雪の場』へ、王子とクララがお菓子の国に旅立って行き……

 第二幕へつながっていく。

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