第234話 九月ハレルキン、コロンビーヌ、ムーア人

 三体の人形、ハレルキン、コロンビーヌ、ムーア人の踊りも、美織みおり瑞希みずき古都ことばかりでなく、青山青葉あおやまあおばバレエ団のいろいろなダンサーが一人一人を見てくれる。

 いつき玲子れいこひかるにとっては、佐由美や麗子、康子たち青山青葉あおやまあおばバレエ団のダンサーは、どのダンサーも初めて習うダンサーばかりだったが皆それぞれ指導が的確でわかりやすかった。しかし、皆、言うことは共通していて「ストレッチをもっとしろ」と言われた。

 いつきと光には、昨日からげんが付いて教えている。美織みおり瑞希みずき、優一からも言われていたが、ここにきて、またげんからもストレッチの重要性を繰り返し言われる。

 昨日の稽古のときも、げんいつきと光、そして女性の玲子の踊りまで、一通り踊って見せてくれた。元の踊るハレルキンやムーア人は技術も表現力も彼らの想像を超えるレベルだった。玲子の踊るコロンビーヌの表現も繊細で周りにいた者を驚かせた。


 樹や光、玲子も七月に青山青葉あおやまあおばバレエ団の『白鳥の湖』を見に行った。そして、あの大舞台でロットバルトを演じるげんを見て、その凄まじいほどの表現力、演技力、踊りの技術に圧倒された。げんの踊るロットバルトは、まさに人間ではないものだった。


 彼が目の前で自分が踊る踊りを踊って見せてくれた、それぞれの三体の人形の踊りも、また、どこか人間ではない不思議な感覚を見ている者に与える。ハレルキンはピエロのような人形の踊り、コロンビーヌはフランス人形のような人形の踊り、ムーア人はどこの国か定かではないが、不気味な雰囲気の踊りだ。それら三体の人形の踊りを見事に表現するげん。それは明らかに彼の身体能力の高さから生まれてくるものであると感じる。

 そんな彼の踊りを目の前で見せられ、三人とも、いよいよ本格的にストレッチから見直した方がいいと思った。


 ハレルキン、コロンビーヌ、ムーア人のリハーサルでは、三人とも今できる精いっぱいの踊りを見せる。

 美織や古都こと、瑞希が少しにらむような目線を送りながらも、

「頑張って練習できてる。でも、まだまだ、よくなるから」

 と三人に声を掛けた。

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