第227話 喫茶店エトワールで 寿恵

 一通り文化イベントの段取りが出来上がった後、すみれと美織みおりは喫茶店エトワールの千春とマスターである旦那のまことさんと話し始めた。テレビで流れているバレエの映像について何かしきりに美織とすみれがマスターの誠に話している。

 園香そのかは美織とすみれがマスターと何を話しているのか気になったが、園香と真美のところに恵人けいとのぞみしずか寿恵としえがやって来た。

 四人とも青山青葉あおやまあおばバレエ団の団員で、恵人けいとはプリンシパル、三人はソリストで、稽古場で見るとプロダンサーという風にしか見えないが、こうして稽古場以外のところで普段着のところを見ると、しずか寿恵としえは高校生という感じで花村バレエの高校生たちと変わらないように見え、あどけなさがある。

 恵人けいとのぞみ園香そのかや真美と年が同じだ。高校生ながら、バレエダンサーとして高度な技術と表現力を持つしずか寿恵としえが園香や真美を先輩として慕ってくれることに、どこか違和感のようなものを感じる。

 寿恵は薄いピンクのTシャツに、ふわっとした白いスカートという出で立ちだ。


「園香さん、真美さん、さっきまで、すみれさんと美織さんと何を話してたんですか?」

 寿恵が興味深々という感じで聞いてくる。

「来月、文化イベントがあって、そこにうちのバレエ教室がバレエの作品で参加するの。それに何の作品で参加するか話してたの」

「ええ、すごい。楽しそうですね『くるみ』じゃない作品で参加するんですか?」

「いえいえ、今回の『くるみ』の第二幕のディベルティスマンからもいくつか踊るよ。『くるみ』と『ドンキ』から抜粋する形になるみたい」

「面白そう。そういうの、私も出てみたいなあ」

 寿恵の素直さと無邪気な感じが、普段の稽古場の雰囲気と違い新鮮な感じがする。


「寿恵ちゃんは、この『くるみ』の他に何か次の舞台が決まっているの?」

園香が聞くと、

「私はこの『くるみ』の前に青山青葉あおやまあおばバレエ学校の発表会というのがあって、そこで『ジェンツァーノの花祭り』のパ・ド・ドゥを踊るんです」

「へえ『ジェンツァーノ』踊るの、きっと寿恵ちゃんが踊るとかわいいんだろうね」

「静と踊るんですよ」

「へえ、みんなすごいね。いろいろな舞台で踊って、バレエ学校の発表会っていうのがあるんだね」

「そうなんです。バレエ団の公演とは別に、バレエ学校に通っている生徒たちで発表会をするんです。これはキッズクラスから大人クラスまでの生徒と、高校生以下のバレエ団員が出演できるんです」

「へえ、じゃあ寿恵ちゃんや静君は団員だけど高校生だから出るんだね。恵人君とか希君は出られないんだ」

「まあ、そうなんですけど男性はバレエ団員でも、一般的なバレエ教室でいうゲストダンサーみたいな感じで、パ・ド・ドゥのパートナーとして出演することもあるんですよ」

「そうなのね」

「だから、恵人さんと希さんも出演するんです」

「いいなあ。青山青葉バレエ学校の発表会見に行きたいなあ」

「ええ、でも、園香さんたちも文化イベントで踊るって……」

「あ、まあ、そうだね。きっと、同じ頃なんだよね」


 園香は寿恵に対して、今どきの高校生という感じであまり相手にしてくれないかと思っていたが、東京の青山青葉あおやまあおばバレエ団に行ったときもそうだったが、意外と話しやすい子で、園香になついてくれている感じがして嬉しかった。

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