第226話 喫茶店エトワールで文化イベントの話(三)

 すみれが話を戻して美織みおりに問い掛ける。北村と秋山の踊りの話だ。

「ところで、北村先生と秋山先生にお願いする踊りのことだけど。バジルと一緒にキトリの友人(町娘)二人が踊る踊りが曲もそれほど長くないし、優一も一緒だし、北村先生と秋山先生、二人一緒だし、いろいろと負担がないかなって思ってるの」

「そうですね」

 美織も納得する。

「じゃあ、これは、後で二人にお願いしてみるね」


◇◇◇◇◇◇


「そこで、私と美織なんだけど」

 すみれの言葉に美織が首を傾げる様に彼女を見つめながら、

「メルセデスとドルシネアでいいんじゃないですか。すみれさんか私の、どっちかが、メルセデスで、どっちかがドルシネア」

「美織どっち踊りたい? 私はどっちでもいいけど」

「私、メルセデス踊りますよ。すみれさんドルシネアお願いします」

「でも、他のバレエ教室の生徒が見に来たら、美織のドルシネア見たいんじゃない」

「いえいえ、すみれさんのドルシネア見たいんじゃないですか」

「バレエ見たことない人にとっては、ドルシネアって、ちょっと長めで、おとなしい感じじゃない。その点、メルセデスの方がスペインって感じで惹きつけられるかも」

 真美が言葉を挟むように、

「どちらがどちらを踊っても十分惹きつけられる思いますよ」

 と言う。園香そのかも合わせる様に、

「今度の文化イベント市内の方も県西部である方も、両方とも二回舞台があるんで、すみれさんと美織さんが、それぞれドルシネアとメルセデス踊られたらいかがですか? たぶん、他の教室の生徒さんだけじゃなくて、ここの生徒もお二人のそれぞれのドルシネアとメルセデス見たいんじゃないかと思いますよ」

 すみれと美織が顔を見合わせ、

「そうしようか」

 となって、文化イベントで踊る曲が決まった。

 結局、この構成でいくと、作品としても『くるみ割り人形』と『ドン・キホーテ』の抜粋となり、出し物として統一感もあるという結論に至った。

 園香と真美、すみれと美織は、そんな話を終始していたが、その後、喫茶店エトワールに来ていた北村と秋山にも伝えたところ、バジルとキトリの友人(町娘)の踊りは二人とも踊った経験もあるし、三人で踊れるから楽しそうだと喜んでくれた。近くにいた真理子とあやめ、青葉あおばも「いいんじゃない」と言ってくれた。

 全員の意見として、文化イベントで踊る出展作品については、作品数も、時間的にも、これで問題なさそうだということになった。


 衣装については、この踊りは花村バレエでも何度も踊ったことがあり教室にあるという。

 真美はキトリの衣装と、この踊りで使うカスタネットを持っているという。それを聞いて、すみれが嬉しそうに、

「ええ、あなた本当にキトリじゃない。普通、カスタネット自分で持ってないでしょう」

 というと、美織が、

「私も持ってますよ。カスタネットと扇子せんす。そういう、すみれさんも持ってるでしょう」

 というと、

「まあ、持ってるけど」

 と言って、皆に笑いが広がった。

 ドルシネアとメルセデスの衣装は、すみれと美織が持っているという。


 後で聞いた話だが、すみれと美織の持っている衣装を持ち寄ったら、ほとんどのバレエ作品のソリスト、主役の衣装がそろうらしい。

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