第224話 喫茶店エトワールで文化イベントの話(一)

 すみれが、ミックスサンドを手に、もう一度、美織みおりに確認する様に聞く。

「今度の文化イベントで『くるみ割り人形』の作品を踊る生徒は、第二幕の『中国』と『トレパック』に『あし笛』それと『キャンディ』に出演するメンバーよね」


 美織がミックスジュースを飲みながら答える。

「はい、そうです。全員でないにしても、ほとんどの生徒が出るみたいで、たぶん構成とかも大丈夫みたいです。人がいなくて立ち位置がわからなくなるなんてことないと思います。園香そのかちゃんの『金平糖』も一人だしね」

「はい」

 園香が頷く。


 美織が続ける。

「それ以外の踊り、つまり『くるみ割り人形』以外の踊りを踊る予定なのは、瑞希みずきと優一が『ドンキ』のグラン、理央りおちゃんが『ドンキ』のキューピッドでしたよね。あと、真美ちゃんが『エスメ』でしたっけ。で、すみれさんと私と、北村先生、秋山先生が、まだ、何を踊るか決まってない」

 美織が、そこまで言うと、すみれが何か考える様に言う。

「それなんだけど、あの後いろいろ考えて、瑞希と優一、理央ちゃんはそれでいこうと思うんだけど、真美ちゃんと北村先生、秋山先生、私と美織の踊りを、どうしようかと思ってるんだ」

「真美ちゃんは『エスメ』変更するんですか?」

「悩んでる」

 そう言って、すみれが真美を見つめる。


 すみれがミックスサンドを一口食べながら言う、

「最初はランダムにいろいろなバレエ作品から見栄えのするヴァリエーションを抜粋しようと思って、真美ちゃんには『エスメ』って思ってたけど、瑞希と優一、理央ちゃんが『ドンキ』の中の作品やるじゃない。あと、見栄えのする踊りって考えたんだけど『ドンキ』の一幕のキトリのヴァリエーションとか『ドンキ』の一幕でバジルが街の女性二人と一緒に踊る踊りなんかが浮かんだのね。それなら、もう『ドンキ』のメルセデスの踊りとか、ドルシネアの踊りにした方が、全体的にも『くるみ』と『ドンキ』で、なんとなく統一感があるかなって」

「いいですね」


「反対にそれ以外の踊りだと、真美ちゃんの『エスメ』として、まあ、私と美織はなんでもいいけど、北村先生と秋山先生は、今回の『くるみ』の作品もある中で、全然『くるみ』と関係ない新たな踊りを、しかもヴァリエーション一曲を今から踊ってっていうのは、いくらバレエの先生とはいえ、ちょっと負担かなと思って」

「そうですね。たぶん、それをすみれさんから振り付けられたら余計に負担になりますよ」

「どういうこと」

「いや、たぶん、まだ、すみれさんと出会って間もない二人にしたら『すみれさんに、どこまで求められてるんだろう?』って」

「そうかな……でも、真美ちゃんは言われたら、なんでも踊るって言ったよ」

「いや、いや」真美が慌てる。

「真美ちゃんは全国レベルのコンクールダンサーだから……」

「いや、いや、いや」

 真美は両手を大きく振りながら、美織の言葉をさえぎろうとする。もうどう答えていいかわからない。穴があったら入りたいという感じだ。


「いいじゃない」

 すみれが笑う。

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