第223話 喫茶店エトワールで 美織、すみれ、真美、園香

「まあ、考えておいて『スペインの踊り』の件」

「え、あ、はい。すみれさんに言われたら、なんでも踊ります」

 戸惑いながら返事をする真美に、すみれが微笑む。隣で聞いていた美織みおりが少し目を丸くするような表情で、

「真美ちゃんなら大丈夫と思うけど『すみれさんに言われたら、なんでも踊ります』なんて青山青葉あおやまあおばバレエ団のプリンシパルでも、なかなか言わないセリフよ。頼もしいわね」

 と言って微笑む。

「あ……」

 とんでもないことを言ってしまったという表情で下を向く真美に、すみれが笑顔で言う。

「いいの、いいの。たぶん、あなたは直前に出演が決まっても大丈夫そうだから、それに美織が言ったように女性二名、男性二名の構成なら、もう一人の男性は、この前、青山青葉あおやまあおばの『白鳥の湖』第三幕で『スペインの踊り』をやってた木島剣きじまけんちゃんに頼むから」

 と、すみれが言う。微笑みながら聞いていた真美と園香そのかも、もうそこのキャスティングまで頭の中にあるのかと驚いた。


 すみれと美織がテーブルにあるミックスサンドを園香と真美に勧めてくれる。

「すみれさん、ところで今回の、この『くるみ』のリハが終わったら、文化イベントの振りも、そろそろ練習するんですか?」

 美織がミックスジュースを飲みながら聞く。

「そうね、まあ、そこは北村先生と秋山先生にレッスンのスケジュールを聞かないと」

「間に合いますよね」

「間に合わないわけないでしょう」

 すみれはそういうが、まだ、文化イベントのための踊りの練習はまったくしていない。イベントでは、今回の『くるみ割り人形』の作品を踊る生徒もいるが、それ以外の踊りを踊る予定の者は、瑞希みずきと優一以外、振り付けもされていない。


 園香は『くるみ割り人形』の金平糖の精を一曲だけ踊る予定だが、他の振り付けされてないメンバーは大丈夫なのだろうかと思った。

 しかし、そうは思うものの、まだ、振り付けされてないメンバーというのは、キューピッドを踊る予定の理央りおの他は、真美とバレエ教師の北村、秋山、それに美織、すみれだ。直前に振り付けられても問題なさそうな顔ぶれだった。

 理央には、すみれと美織が全面的にフォローするだろう。今までも、すみれが短期間で、あっという間に振り付けを仕上げる姿は見てきた。

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