第17章 喫茶店エトワールでのひととき

第222話 一日目の練習が終わって、喫茶店エトワールで

 一日目の練習が終わった。

「ありがとうございました」

 ゆいが大きな声で挨拶をしてお辞儀をする。真由もそれにならう様に挨拶しお辞儀をする。周りにいた大人たちから微笑みがこぼれる。


 今日は青山青葉あおやまあおばバレエ団のダンサー、スタッフは晩ご飯は喫茶店エトワールで食べることになっていた。

 喫茶店エトワールは朝から昼にかけては喫茶店だが、夜は晩ご飯が食べれるちょっとしたレストランの様になる。洋食、中華、和食と何でも食べれるファミリーレストランのようになる。

 六月に青山青葉あおやまあおばバレエ団のダンサーが来た時も、ここで食事をすることが多かった。

 青葉あおばとおる古都ことが真理子やあやめたち花村バレエのスタッフと公演練習の進み具合と、今後のリハーサルのスケジュールについて話を詰めていた。


 瑞希みずき恵人けいと、優一はげんを中心としたバレエ団のメンバーと何か楽しそうに話している。佐由美や麗子、康子も寿恵としえのぞみしずか、そして、二人の彩と楽しそうに話している。


 店の片隅で、すみれと美織みおりが話している。園香そのかと真美は気になり同じ席に座る。すみれが園香たちに、

「私たちに気を遣わなくていいから、みんなと食事をすればいい」

 と言うが、園香と真美は、すみれや美織と食事をしたいと思った。


「由奈ちゃん、いい感じですね」

 美織がすみれに話し掛ける。

「クララの子? そうね。真面目だよね。あの子」

「素直というのかな、なんか、全部吸収してくれる感じなんです」

「そう。それがいい方向にいってくれるといいんだけど、なんというか、ちょっと主張に欠けるかなって思ったところもあってね」

「でも、今日のすみれさんのアドバイスで変わるんじゃないですか」

「そうだといいわね」

 美織とすみれが話しているのを園香と真美がじっと聞いていた。

「あなたたち二人もいいわよ。園香ちゃんはよくなってきてる。真美ちゃんは、なんとかもっと使えないかなあと思ってるんだけど」

「いえいえ、十分使ってもらってます」

 真美が謙遜する。

「古典は物語も振りも決まってるから、どうにも途中からだと難しいのよね」

 すみれが呟く。

「そうですよね。それに真美ちゃん上手だから『どこかでもっと使えないかなあ』って、みんな思ってるんだよ」

「いえ、そんな」

「ディベルティスマンのどこかに入れられないかなあ」

 すみれが呟くのを聞き、美織が言葉を添える様に言う。

「スペインを女性二人、男性二人の四人の構成にするとか」

「……」

 すみれが真美を見つめる。

 真美が美織と園香を交互に見て、慌てて首を振りながら、

「え、いえいえ、あれは奈々ちゃんの踊りですから」

「すみれさんが青葉あおば先生に言ったら、すぐ採用されるよ」

 美織が本気か冗談かわからない微妙な口調で言う。

「え、でも、なんか奈々ちゃんとの関係が微妙になりそうで」

 慌てる真美。

「微妙って、どうゆうこと、仲良く踊ればいいじゃない。後から入ってきて踊るっていう点では『花のワルツ』も『終曲のワルツ』も一緒でしょう。それとも『スペイン』は二人で踊ったら、あからさまに、あなたの上手うまさばかり目立つから気を遣うの?」

「いえ、とんでもない」

「とんでもない? そんな風には聞こえないけど……まあ、あなたをもっと使いたいのは、皆、同意見だと思うよ」

 すみれがグラスの水を飲みながら呟く。

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