第219話 そして花のワルツ

 これから『花のワルツ』のリハーサルが始まる。

 第二幕の『キャンディボンボン』の次が『花のワルツ』だ。


 舞台の後ろ(教室の後方)に『スペインの踊り』から『あし笛の踊り』までのディベルティスマンのダンサーたちが座る。ディベルティスマンのダンサーたちは、金平糖の精の園香そのかと王子の恵人けいとを中心に左右に並ぶように座る。


 舞台の中央(教室の中央)に『キャンディボンボン』を踊り終えた場所に子どもたちとジゴーニュおばさん役の美織みおりが準備する。


 舞台袖ぶたいそでには北村、秋山、瑞希みずき古都こと、すみれ、そして、舞台からハケてきた美織の衣装の早替えを手伝う衣装係の由香と一花いちかがストップウォッチを持って準備する。


 今日は衣装を着ないリハーサルだが、明日は衣装付きで全通しをするという。美織の衣装の早替え時間は彼女が『キャンディ』が終わってハケてきてから約二分三十秒程度だ。


 ダンサーが全員『キャンディボンボン』が終わる時の自分の場所に付いた。


 真理子が全員に声を掛ける。

「じゃあ、皆さん『キャンディ』の曲が終わるところから始めます『キャンディ』のみんなは踊り終わりのポーズから始めますよ」

「はーい」「はーい」

 キャンディの子どもたちが元気に手をあげ返事をして最後のポーズの位置に並ぶ。


 真理子が『キャンディボンボン』の曲の最後を流す。キッズクラスの子どもたちは『キャンディ』の最後のポーズで待っている。曲が終わり、ジゴーニュおばさん役の美織と一緒に全員でお辞儀をする。

 そして、子どもたちは二手ふたてに分かれて舞台のかみ(客席から見て右)と舞台のしも(客席から見て左)に分かれて舞台袖ぶたいそで近くに座る。

 美織がゆっくり舞台袖ぶたいそでまで歩いて行く。


 そして、そでに入ると同時に、由香と一花いちかのところに走って行く。美織がそでに入るのと同時に由香がストップウォッチで時間を計り始める。一花いちかもストップウォッチを覗き込むように見る。すみれもこの早替はやがえを手伝えるように近くで準備する。


 美織がそでに入ると同時に、稽古場には『花のワルツ』の曲が流れ始める。


 管楽器の優雅な音色からハープのが奏でる。ホルンの美しいニ長調の主題をクラリネットが受ける様に奏でる。

 ワルツで出てくるダンサーたちが宮廷舞踊を思わせる美しく優雅な踊りを踊り始める。


 早替はやがえをイメージする様に由香、一花いちか、すみれが美織に付く。美織が衣装を脱ぎ頭飾りを取り。次の衣装に着替える動きをする。

 一分三十秒……二分……二分十五秒……二分二十秒。衣装を着替え終わらなければならない時間だ。


 すみれと美織が曲に合わせて舞台に出て行く。


 由香と一花いちかがストップウォッチをにらむように見ながら頷く。

「ギリ、なんとかいけるね」由香が呟く。

「うん、頭飾りも大丈夫だと思う」一花いちかが言う。

「最悪、オーケストラの恵那えなさんにタイミング図ってもらうよ」由香の言葉に、

「その魔法の技があるんだったら調整してよ」一花いちかが微笑む。

「そうね。曲の入りをどれだけ待ってもらえるか……待たせすぎるとお客さんの気持ちが舞台から離れるから、真理子先生の思惑もあるだろうし、実際、美織が舞台から見えなくなったら、すぐ『花のワルツ』の曲が入る感じだと思うよ。だってお客さんは次また美織が出てくるから待ってあげようなんて思ってないから」

「音が出たらカウントダウンの始まりね」

 由香と一花いちかが舞台で踊るダンサーたちを見ながら微笑む。


 ダンサーたちが華やかに『花のワルツ』を踊る。すみれと美織の踊りは一際美しくダイナミックに『花のワルツ』の壮大な曲に美しさ、華やかさを添える。

 見学席で見ているお母さんたちから感嘆の声が漏れる。前で見ている真理子や青葉あおば、手伝いに来ている青山青葉あおやまあおばバレエ団の康子や佐由美たちも予想以上の完成度に驚いて見入っていた。

 踊り終わって真理子と青葉あおばからいくつかのアドバイスがあったが概ね問題はないという感じだった。

 キャンディの唯や真由も楽しそうに踊りを確認する。全員でもう一度、指摘されたところを確認して休憩に入った。

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