第217話 花のワルツ確認

 とおるの声で全員が『花のワルツ』のリハーサルの準備に入る。

 この『花のワルツ』が始まる時、ディベルティスマンという第二幕の踊りを踊っていたダンサーたちは皆舞台上に残っている。つまり『スペインの踊り』から『キャンディボンボン』の子どたちは舞台の上にいる状態で『花のワルツ』が始まる。

 ジゴーニュおばさん役の美織みおりは『キャンディ』の子たちと一緒にルベランス(お辞儀)をした後、衣装の早替はやがえがあるので舞台からハケて行く。子どもたちだけが左右舞台のそで近くに二手に分かれて残る形になる。

 この状況を出演者の中で一番小さなキャンディボンボンの子どもたちに、もう一度きちんと理解しておいてもらうことが必要だ。美織について舞台からハケてきてはいけない。

 今日までの普段の練習で美織や瑞希みずき、あやめや北村、秋山が何度も話して聞かせてはきたが、実際に他のダンサー全員が入って『キャンディ』から『花のワルツ』につながる練習は六月以来だった。


「キャンディの皆さん。みんなの踊りが終わってから『花のワルツ』の最初の方は舞台の端の方に座って待っているのよ」

 あやめがもう一度確認する様に子どもたちに言う。

「はーい」「はーい」

 子どもたちが大きな声で手をあげて返事をする。にこにこしながら大きな声で返事をする姿が可愛らしいが不安が残る。

 あやめと北村、秋山が顔を見合わせる。

 美織がもう一度子どもたちに『キャンディ』を踊り終わった後の場所や、ジゴーニュおばさんの自分が舞台からいなくなることを優しく伝える。

 ゆいや真由、子どもたちがキラキラした笑顔で頷く。


 徹が美織のところに来る。唯や真由が興味津々という感じで二人を見ている。少し話した後、美織がキャンディの子どもたちに、

「みんな『キャンディ』の最後のお辞儀のところから始めるからね」

 と言うと、

「はーい」「はーい」「はーい」

 と、子どもたちが元気いっぱいに手をあげて返事をする。


 徹が全員に伝える。

「それでは『キャンディボンボン』の踊りが終わったところから始めます。皆さん、第二幕の『キャンディ』が終わったとき、自分がいる場所から始めるので準備をしてください」

 そう言って、真理子と青葉あおばのところに行って何かを話す。


 金平糖の精の役の園香そのかと王子役の恵人けいとは舞台の後ろ中央に並んで座る。徹は何かを打ち合わせた後、二幕で『アラビアの踊り』を一緒に踊るあやめのところに行く、徹自身も舞台の自分の立ち位置に付く。ディベルティスマンのダンサーはそれぞれ一緒に踊る者同士で舞台の後方、園香と恵人との周りに座る様に控える。そのディベルティスマンのダンサーの両端に袖に並ぶように、踊り終わった後のキャンディのダンサーが並ぶ。

 ここに『花のワルツ』から踊り始めるダンサー数人が登場して踊り始め、曲の途中からディベルティスマンのダンサーが合流する形で今回の出演者全員の踊りになる。


 デッキに真理子が付いて音を出す準備をする。ダブルキャストのこの回出演しないダンサーが稽古場の前に座って見る。

 一度、通した後、ダブルキャストのもう一人のダンサーと入れ替わってもう一度通すという。


 以前、美織と優一がここでバレエフェスティバルのリハーサルをした時もそうであったが、本当に青山青葉バレエ団のダンサーたちの練習量の多さには驚かされる。立て続けに何度も同じ踊りを踊る。その体力と集中力が常人では考えられない。

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