第215話 花のワルツ、終曲のワルツのリハーサル前に

『雪の場』が終わって、この後『花のワルツ』のリハーサルに入る。瑞希みずきは気になっていることがあった。この前、青山青葉あおやまあおばバレエからとおるたちが来たとき『花のワルツ』に、青山青葉バレエ団から男性ダンサー四人、女性ダンサーを一名補充すると言っていた。瑞希が古都ことに話し掛ける。

古都ことさん『はなワル』って男性と女性が補充されるんでしたっけ?」

「え、ああ、女性の一人はレベルの高いダンサーって言ってたから、すみれでしょ。男性は、多分、和也とさとし、哲也にまことが来るんじゃないかな」

「え、今回来てないのは、今、何か舞台に出てるんですか?」

「ええ、そうみたい、うちの公演ではないけど、皆それぞれにゲストでいろいろなとこのリハーサルに行ってるみたいで……次回からは、こっちのリハーサルに来るようにしてるから」

「ふうん『はなワル』は、まだ、これに大人がたくさん入って来るんですね。青山青葉バレエ団のダンサーも多いから、問題はないと思うけど……」

少し不安そうな表情で呟く瑞希。それを察するように古都ことが話す。

「そうね『はなワル』も『最後のワルツ』も人数多いわよね」

「その『最後のワルツ』にも、和也さんや哲也さんも入るんですよね」

「そうでしょ『外れて』ってわけにはいかないんじゃない。最後だし、それに『花ワル』にも出るわけだし……どうして?」

「だって、キッズの小さい子どもたち、あれに更に大人の男性四人が加わった状態で踊ったことないんですよ」

「本番までに、全員がそろった状態で踊る回数が少ないと、さすがにキッズの子どもたちは危険よね。この前も高校生の女子とぶつかって転んだ子がいたわね」

「そう、ゆいちゃん。あの子、キッズクラスで一番小さい子だけど、すごくしっかりしてるんです。あの時も、他の大人の方が振りが曖昧で迷子になっていたところへ、きちんと踊っていた唯ちゃんがぶつかったんですよ」

「見てた。わかってる」

 古都ことが頷く。瑞希と古都の会話を園香そのかも頷きながら聞いていた。すみれと真美も少し心配そうに話を聞いている。


「今回も『花ワル』と『最後のワルツ』は、すみれと、佐和ちゃん、理央りおちゃん、真由ちゃんが入って。それだけだって、この前のメンバーより四人も多いのよね」

「あ、それに真美ちゃんが入るんです」

 瑞希の言葉に、そばにいた真美もドキッとした。古都が真美の方に目線を向けながら微笑んで、

「そうみたいね。すみれから聞いたわ。真美ちゃん『花ワル』と『最後のワルツ』に入るそうね。実はこの前のリハーサルでキッズの小さな子が高校生とぶつかって転んじゃったのよ」

「ええ、それは危険ですね」

「そう、さすがに、これだけ人数が多くて、結構、曲のテンポも速かったりすると、実際に人がいない状況で、そこに人がいることを想定して動くというのが難しくなるのよね」

「そうですね」

 真美は前回のリハーサルを見ていない。それでも『くるみ割り人形』の全幕に出演したことのある彼女は、経験的に、その場面、状況が十分理解できた。真美は美織みおりや瑞希から『花のワルツ』と『終曲のワルツ』の振り付けはしてもらっていたが、実際に全員がそろった状態での踊りは経験しておらず少し不安はあった。

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