第214話 雪の場 ~青山青葉バレエ団の指導~

 美織みおりが鏡の前、出演者全員の前に立つ。美織の足元にすみれが座る。その二人を中心に青山青葉あおやまあおばバレエ団のダンサーたちが全員稽古場の前に立った。青葉あおばの隣に真理子とあやめが並ぶ。デッキの前で瑞希みずきが曲を準備する。

 稽古場の前に並ぶバレエ団のダンサーたちに圧倒される。

 出演しない生徒は稽古場の前に並んで見る。キッズクラスのゆいや真由も鏡の前に座って見ている。

 この『雪の場』の踊りは、数あるバレエ作品のコール・ド・バレエ(群舞)の踊りの中でもテンポが速い踊りの一つだ。このテンポの速さを不安に感じていた大人クラスの人達だったが、すみれの指導もあって自信を持ってリハーサルに臨む。


 一つ前の場『冬の松林の場』の終わりから通す。一つ前の場の最後、園香そのか恵人けいとの二人の場面から『雪の場』につながる。

 二人が踊り終わったところでフルートの音色とともに瑞希みずきが軽やかに舞台に飛び込んで来る。一片ひとひらの雪、そして、続いて寿恵としえが舞い降りる様に飛び込んで来る。静かな寒さを感じる音色が美しい。それに続く様に、二人、二人と高校生、中学生のダンサーたちが空から舞ってくる雪の様に舞台に登場してくる。


 すみれの刺すような目線がダンサーたちを見つめる。優しい表情の中に厳しさが見える美織の目線。手伝いに来てくれた康子や佐由美、麗子も厳しい目線を向ける。


 千春たち大人クラスの生徒たちが曲に合わせて丁寧に踊る。すみれが微笑みながら見つめる。


 中盤から曲が激しくなり、二十四人のコールド(群舞)ダンサーたちが吹雪の様に入り乱れながら踊る。中学生、高校生、大人クラスのダンサーが一糸乱れず踊る。曲にコーラスが入り、全員が美しい列を成して踊る。その中に園香そのか恵人けいとも入って来る。

 稽古の初めには少し不安そうな表情を浮かべていた佐和や理央りおもブランクを感じさせない踊りを見せた。


 踊り終わり、青葉あおばが真理子と顔を合わせ何か確認する様に話していた。少し話した後、ダンサーたちの方に青葉が語りかける。

「よかったです。この調子で頑張ってください」

 真理子も頷きながら皆の方に微笑む。

「リハーサル前に先生方から注意されたことを忘れないようにね」


 美織が園香と恵人に『雪の場』の中での二人の動きについて確認しながら細かいアドバイスをする。園香にとってもコールド(群舞)のダンサーが全員そろった中で、自分の動きを確認できるリハーサルは貴重だった。


 佐由美と麗子、二人の彩が中学生や高校生たちにアドバイスする。中学生たちもバレエ団のダンサーから直接指導してもらえることなど経験がなく緊張した表情で真剣に聞いていた。


 康子が瑞希と寿恵に細かいところをアドバイスし始める。舞台上を走るスピードの変化の付け方、細かい所作で雪の神秘的な様子を美しく表現する。踊って見せる康子の姿に近くにいた中学生や高校生たちも目を奪われる。園香もその美しい表現に驚かされた。

 誰もが瑞希や寿恵に対する注意と思いながらも、青山青葉あおやまあおばバレエ団のプリンシパルの一人で、美織と並ぶバレリーナといわれる彼女の踊りが気になる。皆ちらちらとそちらを見ながら、康子の言葉に耳をそばだてていた。

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