第211話 昼休みの終わりに

 すみれが北村と秋山に聞く。

「演出をこちらでということでしたら、踊ってもらいたい生徒さんをこちらで選ばせて頂いてもいいんですか? もちろん生徒さんに声を掛ける前に先生方には相談させて頂きますが」

「ええ、もちろん、いいですよ。誰か、踊らせたい生徒がいるんですか?」

「まあ」

「誰です?」

理央りおちゃんって子に踊ってもらってもいいかしら?」

「ああ、佐和ちゃんの妹さん」

「そう、真由ちゃんのお姉さん、東京で青山青葉あおやまあおばバレエ学校に来たんです。その時、少し見させてもらったけど、きちんとお稽古されているようで……」

「いいです。いいです。あやめさんにも伝えますけど、たぶん、まったく問題ないと思います。いいと言ってくれると思いますよ」

「そうですか。理央りおちゃん……お姉さんの佐和ちゃんが『あし笛』で、妹の真由ちゃんが『キャンディ』でしょ」

「そうなんですよ」

 秋山が何か懇願するような目をすみれに向ける。


「理央ちゃん、今までどんな踊りを踊ったことがあるんでしょうか?」

 すみれが北村と秋山に問いかける。

「そうですね。バレエの作品としては、小さい頃は『くるみ』の『キャンディ』踊って、あとは『白鳥』の『トロワ』ですね」

「ふうん、その『トロワ』って、男性と一緒にパ・ド・トロワで? それともヴァリエーションだけですか?」

 すみれが北村たちに聞く。

「ヴァリエーションだけです」


 すみれが北村に何か探るような目線を向ける。


「あ、第一ヴァリエーション……」

 少し慌てる様に北村が言葉を添える。


「ふうん」

 すみれが何かを考える様にうつむく。


 美織みおりがすみれを見つめている。園香そのかも真美もすみれに注目する。


「ん?」

 顔を上げたすみれとみんなの目が合う。


「あ、うん、考えとく」

 すみれが呟くように言いながら、北村と秋山の方を見て微笑む。

 美織みおり瑞希みずきは、すみれのその表情から、何か既に考えていると感じた。既に考えているが、それでいいか考えている、そんな表情だった。


 その時、稽古場の入り口に誰かやって来たようで、稽古場の入り口の方がざわざわしていることに気が付いた。園香や美織がそちらに目を向けると数人の女性が稽古場に入って来た。北村と秋山が走って行く。


「康子ちゃん、佐由美、麗子」

 美織が入り口の方に笑顔で手を振る。やって来た女性たちも美織に気付き手を振る。

「美織、手伝いに来たよ」

「ありがとう」

 康子たちの他に、瑞希の同期の大峰彩と川村彩の二人もやって来た。


◇◇◇◇◇◇


 すみれが北村、秋山と一緒に真理子とあやめのところに行く。そして、文化イベントで理央を踊らせたいということを伝えると、真理子もあやめも二つ返事で承諾してくれた。


 真理子が、すみれに聞く。

「理央ちゃんに、何を踊ってもらうの?」

 すみれが教室の隅の方でストレッチをしながら次のリハーサルの準備をしている理央に目を向ける。

 玲子と一緒に『あし笛』の練習をしている姉の佐和。ゆいと一緒に『キャンディ』の練習をしている妹の真由。


 すみれが理央に目線を向けて静かに言う。

「彼女には『ドン・キホーテ』の『キューピッド』のヴァリエーションを踊ってもらおうと思うのですが……」


 真理子とあやめ、北村と秋山が互いに目を合わせて微笑んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る