第208話 グラン・パ・ド・ドゥ 園香、恵人 そして、すみれ
『金平糖の精と王子のグラン・パ・ド・ドゥ』
「アダージオ合わせようか」
「うん」
この間、園香は優一が相手をしてくれて何度もアダージオを練習していた。プロムナードもリフトも安定してできるようになっていた。最初、恵人と合わせた時はリフトが怖かったがリフトに対する恐怖心がなくなっていた。
すみれがやって来て見てくれる。園香は緊張した。さすがに、すみれに見られているとバレエ団でプリンシパルを務める恵人でさえ緊張しているのがわかった。あの『白鳥の湖』の全幕で王子を務めた恵人でも緊張している。
「硬いよ」
すみれがボソッと言う。
「は、はい」
園香より先に恵人が返事をする。
「あんまり女性を固定しすぎるなって。女性が表現しにくくなるんだよ。表現しやすくなるようにサポートするの」
「はい」
「ちょっと、見てて」
すみれが恵人に代わって園香をサポートする。
「最初から通すよ」
すみれが園香に声を掛けてアダージオを最初から通す。園香もすみれと一緒にこの踊りを踊るのは初めてだ。緊張する。
「落ち着いていつものように」
すみれの優しい言葉に少し気持ちが落ち着いた。
驚いた。自分の踊りたいように踊れる。初めて恵人と踊った時、恵人のサポートの上手さに驚いた園香だったが、すみれのサポートは遥かにそれ以上だ。必要なところに必要な力だけで支えてくれている。園香の動きを最大限に生かしてくれている。
まわりで見ていた
次の動きはリフト。
踊りを止める園香に、すみれがまっすぐ目線を送る。
「なにをしてるの。続けなさい」
「でも、この後は」
すみれが園香の方を見る。
「はい」
園香が振りを続ける。男性のパートナーの時と同じように肩に乗るリフトの態勢に入る。思い切って、すみれの肩に乗る。
その瞬間、恵人の時より、優一の時よりスムーズにサッと肩の上に軽々と園香をリフトした。
「おお……」
と稽古場にいたバレエ教師、ゲストダンサー、生徒ばかりでなく見学席で見ていたお母さんたちからも感嘆の声が漏れた。
すみれは小柄で線が細く華奢なダンサーだ。肩に乗っている園香と同じくらいの身長、体格、体の線は園香より細く見える。そんな、すみれが大人の女性を軽々とリフトして自分の肩の上に座らせる、その体幹の強さに驚愕させられる。
キッズクラスの
「すごーい」
と言う。
リフトからゆっくり美しく園香を下ろす。園香は円を描く様に走り、もう一度、同じように肩に乗る。一通りすべての踊りを通して、すみれが恵人にサポートとリフトの細かい指摘をする。恵人は頷きながら動きを確認する。
そして、もう一度、恵人と園香でアダージオを通す。先程より遥かに踊りやすく美しい表現ができるのが園香自身にもわかった。
踊り終わると、すみれが微笑みながら、
「いいんじゃない」
と言って、キャンディの唯たちの方に歩いて行った。
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