第207話 それぞれのディベルティスマン

『キャンディボンボン』

 美織みおりがキッズクラスのキャンディのところにやって来る。ゆいや真由は相変わらず元気に『キャンディボンボン』の練習に励んでいる。青葉あおばもやって来てキャンディの踊りを見る。

 楽しそうに踊りながらも仕上がりの精度は非常に高い。美織との掛け合いも自然で、今回の舞台で最年少の踊りとなるが誰の目からも、この踊りのレベルの高さは明白でゲストダンサーが口をそろえて素晴らしいと褒め称えた。


『アラビアの踊り』

 あやめととおるが踊る。真理子と青葉が付いて見る。あやめの踊るところを花村バレエの生徒たちは普段あまり見ることがない。あやめの技術の高さに目を奪われる。徹のサポートの上手さも目を惹く。

 この前のリハーサルから後、あやめは優一と一緒に『アラビアの踊り』を何度か稽古場で踊っていた。あやめの柔軟性を生かした踊りは、一際、この踊りの中で、彼女の美しさを引き立たせる。園香や真美も、あやめの踊りを見ていると自分たちにはできない表現の幅を持っていると強く感じる。柔らかいのに、軸、体幹が強い。美しくテクニックも兼ね備えた彼女の踊りは見る者を惹きつける。


『スペインの踊り』

 奈々と雪村希ゆきむらのぞみの踊り。のぞみの踊りは『あし笛』のしずかと同じく前回より更にレベルを上げてやって来たという印象がある。奈々はこの踊りを卒なくこなすという感じだ。

 そんな彼女の踊りに対して、近くで見ていた真美は少し不満を感じているような表情を見せた。真美は奈々に対して、あからさまな言葉にはしないが気のない微笑みを向けているのが園香そのかにも伝わった。

 このところ真美と行動を共にすることが多い園香には真美の思っていることが手に取るようにわかった。奈々の踊る『スペインの踊り』は、どこか集中力を欠いた踊りだった。


「なあ、奈々ちゃんどうしたん?」

「ええ」

 真美はのぞみに聞かれないように奈々に声を掛ける。

「なんか気持ち入ってないんちゃう?」

「え、そんなことないよ」

「そう、そやったらえいけど、頑張ってな。スペインは第二幕のディベルティスマンの初っ端しょっぱなやろ」

 何かを見透かしたように真美が奈々の方に視線を向ける。


 そんな会話を、すみれが近くで聞いていた。

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