第206話 ゲストダンサーがやって来る九月

 週末、青山青葉あおやまあおばとおるげん古都こと恵人けいと、そして、雪村希ゆきむらのぞみ月原静つきはらしずか栗原寿恵くりはらとしえ、衣装の由香と一花いちかがやって来た。

 緊張感もあるが、花村バレエの中には、この七月に青山青葉あおやまあおばバレエ団の『白鳥の湖』の公演、バレエフェスティバルを観に行った生徒も多く、その中には青山青葉あおやまあおばバレエ学校を訪れた生徒も多かった。そんなこともあって、青山青葉あおやまあおばバレエ団に、より親しみを感じられるようになった生徒も多かった。


 今回は集中的に一つ一つの踊りを細かく合わせていく。


『あし笛の踊り』

 月原静が森岡玲子、松井佐和と一緒に『あし笛の踊り』を合わせる。園香そのかしずかを見て、この前来た時より格段に上手になっていることに驚いた。今までいろいろなゲストダンサーを見てきたが、ゲストの先生は上手なものとして見ていた。前回来たときより上手になってやって来たゲストダンサーしずかに謙虚さと真剣さを感じた。

 しずかは青山青葉バレエ団で古都ことから厳しい特訓を受けていてそうだ。バレエ団で暇さえあれば、二人のあやが付いて『あし笛』を練習していたと恵人けいとが教えてくれた。

 青山青葉バレエのゲストダンサーたちも、この前のリハーサルの時いなかった佐和が、きちんと玲子のレベルに追いついている姿に感心した。美織みおりやすみれが教えたとしても、基本がしっかりしていてこそのレベルであることは間違いなかった。

 古都ことが佐和に話し掛ける。

「あなたよく練習できているわね」

「はい」

 嬉しそうに頷き返事をする佐和。古都が細かい部分を指導していく。玲子と佐和の二人としずかの息がぴったりと合っていくのが周りのダンサーからもわかった。


『トレパック』

 トレパックを踊る来島樹くるしまいつき、遠藤光、美川信也をげんが指導する。前回のリハーサルから後、三人は優一や美織、すみれから指導してもらっていた。

 ロシアの民族舞踊の要素が色濃いこの踊りを、最初は楽しそうに踊っていたが、優一たちに民族舞踊の技術を基礎から徹底的に叩き込まれた。

 すみれや美織もストレッチや筋力トレーニングなど、この踊りに求められる身体能力を高める基礎トレーニングをレッスン前、レッスン後、毎日のように指導していたのを思い出す。

 いつしか三人の踊りの中から、楽しく踊る自己流のキャラクターダンスというイメージが消え、本格的なロシアの踊りという印象が強く見られるようになってきた。


『中国の踊り』

 沖本心おきもとこころ三杉桂みすぎかつらと青山青葉バレエの栗原寿恵くりはらとしえが『中国の踊り』を合わせる。寿恵が細かく二人の踊りを手直ししていく、こころかつらも美織やすみれの指導によって踊りの技術は以前からすると目を見張るほど上手になった。しかし、寿恵との技術の差は歴然としている。

 園香そのかはどこが違うのだろうと真剣な眼差しで三人を見る。一言ですべてが違うと言ってしまうのは簡単だが、この明らかな差は、一体どこから生まれているのだろう。

 寿恵の踊りは一つ一つの動きが正確でかろやかな感じがする。この『お茶の精』というのがピッタリ合う。まるで妖精のようだ。コミカルな動きも軽やかで曲を見事に表現している。

 中学二年生のこころかつら、高校一年生の寿恵、年齢的にも二人は寿恵とそれほど変わらない。それでも名門バレエ団のソリストを務める寿恵との実力の差は大きく違う。こころかつらも花村バレエできちんと練習を積んできているが寿恵とは柔軟性、筋力、それに伴う線の細さ、立ち姿から違う。


 そんなことを考えながら見ていると、美織みおりが園香に話し掛けてきた。

「寿恵はあれでも青山青葉バレエ団のソリストよ。バレエ団の松野先生や康子、佐由美や麗子に鍛えられてるのよ。バレエ団の中でも最も優秀なダンサーの一人なのよ」

 そう言って微笑んだ。

「すごいですね。一つ一つの動きがはっきりと鮮明で美しい」

「すごいでしょ」


 そう言って、美織はキャンディのゆいたちの方へ歩いて行った。

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