第16章 ゲストダンサーがやって来る九月

第205話 衣装が届いて 喫茶店エトワールで

 バレエ協会の講習会を終えて、優一はいろいろなバレエ教室からゲストの依頼があったようだ。しかし、優一は今回の記念公演が終わったら瑞希みずきの国際コンクールにパ・ド・ドゥ部門のパートナーとして出演が決まっている。国際コンクールは翌年の七月だ。優一が「国際コンクール以降でよければ……」と言うと「それでもよい」と早くも国際コンクール以降のゲスト出演の予定が決まる。現在は花村バレエに所属する優一である。もちろん、真理子にも了承を得て予定を決める。


 この週末は青山青葉あおやまあおばバレエ団のゲストダンサーが来る。

 週の初めに花村バレエに大量の段ボール箱が届いた『くるみ割り人形』の衣装だ。すべての衣装が届いた。全員分、全曲分の衣装が届いたとあやめが言っていた。

 衣装ができる速さに驚かされる。この間、青山青葉バレエ団では『白鳥の湖』の全幕公演があった。園香そのかたちは見てないが『ドン・キホーテ』の全幕公演もあったのだ。

 衣装の中身について、園香もすべてを確認したわけではないのでドロッセルマイヤーやゲストの先生方の分があったかどうかは定かではなかったが、花村バレエの生徒の分はすべてあったようだ。

 園香の『金平糖の精』の衣装もあった。真理子とあやめに「着てみて」と言われ、着てみた。

 青山青葉バレエの衣装スタッフルーム『アトリエ青山青葉』で着たときと一緒でピッタリとフィットする。腕や体を動かしても、まったく違和感を感じなかった。

 六月に衣装の由香が言っていた、トレパックのブーツも入っていた。くるみ割り人形や小道具も一緒に届いた。


◇◇◇◇◇◇


 練習前に、いつものように園香と真美は喫茶店エトワールに寄る。店に入ると千春の元気な声に迎えられる。


「いらっしゃいませ。あら、園香ちゃん、真美ちゃん」

 真美がメニューを手に取って見ながら、

「今日は何にしようかな。ミックスジュースとミックスサンドにするか……ミックスのミックスで」

「いつものミックスね。園香ちゃんは?」

「私もミックスのミックスで」

「この前、ゆいちゃんがお母さんと一緒に来て、唯ちゃんもミックスジュースとミックスサンド食べて帰ったわよ」

「この前、ここで会ったとき、唯ちゃん『ミックスジュースがいい』って言ってたもんね」

「唯ちゃん。ほんま、かわいいなあ」

「唯ちゃん親子もよく来るんですか?」

「そうねえ、キッズクラスがあるとき、ときどき寄るわね。他のキッズクラスのお友達とお母さんたちと……みんなにミックスジュースとミックスサンド勧めてくれてたわよ」

「へえ、売り上げに協力してくれてるじゃないですか」

「そうね。そういえば、この前、園香ちゃんや真美ちゃんが観に行った大阪の舞台すごかったらしいわね」

「ええ、本当にすごかったです」


 千春さんがミックスジュースとミックスサンドイッチをテーブルに運んでくれた。

「あやめさんから聞いたんだけど、なんか、リハーサルの時、唯ちゃんが大阪の女の子と踊って注目を集めたって聞いたけど、それもすごかったんだってね」

「そう、瑠々るるちゃんっていう女の子と唯ちゃんが踊って、みんなを驚かせたのよ。ねえ、真美ちゃん」

「うん、唯ちゃんのは、本当に驚いたよ。まあ、私は瑠々るるの事は前から知ってたから……唯ちゃんのエスメは本当にびっくりした」

 真美がサンドイッチを食べながら、思い出すように言う。


「唯ちゃんは美織みおりさんとすみれさんに出会って本当によかったわね。それまでは教室に通っている他の子と変わりない女の子と思っていたけど」

 千春が呟く様に言うのを見ながら、園香も頷く。


「ところで、千春さん、衣装見ました?」

「うん。昨日レッスンが終わって、真理子先生とあやめ先生が見せてくれたわ。すごいわね、あの衣装」

「この前来てた、由香さんたち青山青葉バレエの衣装スタッフが作ってくれたんですよ」

「本当にすごいわ。衣装屋さんができるじゃない」

「そうなんですよ。私も衣装スタッフの人達を見学させてもらったんですけど、バレエ団にずっと付きっ切りだから、とにかくダンサーの事とか、踊りの事を知り尽くしてるんですよ」

「なんかちょっと試着させてもらったけど、本当に全然違うみたい」

「そうなんですね。千春さん衣装着てみたんですか」

「ええ」

「由香さんたち衣装スタッフも、もともとダンサーの方たちで踊りの事わかってる人たちばかりやからなあ。由香さんって、すみれさんの同期って言うてたやろ」

「そうそう、言ってたね。すみれさんと古都ことさんの同期なんだよ」

「へえ、由香さんって本当にバレエの踊りのことも全部わかってるバレエ衣装のプロなんだね」

 千春が感心したように言う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る