第202話 バレエ『ライモンダ』

バレエ『ライモンダ』


ライモンダ 橘麗たちばなうらら

ジャン・ド・ブリエンヌ 有賀新ありがしん

アブデラフマン 相川奏汰あいかわかなた

白い貴婦人 柳井桔梗やないききょう


 公演は素晴らしくリハーサルの時以上に出演者は輝いて見えた。リハーサルで見たはなや、扇子せんすを投げられていた理香りか瑠々るるゆいに指摘されることもあった知佳ちか春香はるかというダンサーも本番の舞台を客席から見ると、さすが選抜されたダンサーと思えるレベルの高いバレリーナで、その技術と表現力に魅了された。

 主役の橘麗たちばなうららは前評判通り群を抜いて素晴らしいダンサーだ。彼女の踊りについては美織みおりやすみれも素晴らしいと褒め称えた。

 実際に園香そのかも、彼女の本番の踊りを見て、本当にレベルの高さを見せつけられた気がした。リハーサルの時から、そうであったのだが、彼女はこれだけレベルの高いダンサーに周りを囲まれながら、まったく動じる様子がない。踊りの実力もることながら、一貫して、この公演の主役バレリーナという強い光、輝きを放ちながら、なんとも言えない他のバレリーナと一線をかくしたような静かな、独特な空気をめている。

 彼女の踊るライモンダは、踊りや技術、表現力だけでなく、何か、彼女が内にある、そういうすべてのものがオーラとなってかもし出されているように感じた。

 主役とは……園香は、彼女に一つの大舞台の主役を任されている者の威厳というものを教えられた気がした。

 華やかな実力あるダンサーたちが華々しい技術を見せる中に、彼女がスッと現れるだけで見ている者の心を持っていかれる。吸い込まれるような魅力。鳥肌が立つ感覚を覚える。彼女は一体何者なんだろう……園香は言葉を失い拍手することさえ忘れ、うららという存在に魅了された。


◇◇◇◇◇◇


 舞台が終わって、控え室に行こうと真美に誘われ、みんなで行った。

 うらら宝生鈴ほうしょうりん、宮崎美香が話をしていた。

「お疲れ様」

 真美が声を掛けると、うららが微笑む。

「ありがとうな、今日は皆で観に来てくれて」

「素晴らしかったです。本当に言葉を失いました」

 園香の口から自然にそんな言葉が出た。

「周りの皆や先生方、スタッフが素晴らしかったからな」

 謙虚なうららが、一層、魅力的に見えた。

うららちゃんの踊りが逸品いっぴんやん」

 真美の言葉に、うららは首を振り、

「周りのスタッフが最高の技術で舞台を創り上げてくれる。先生方も、一緒に踊ってるダンサーもな。そして、今日、観に来てくれはったお客さんもや。そういう皆さんのお陰で、今日一日だけ、ひとときだけ、今日の舞台という夢の空間が出来上がってるて思てる。私は、そのみんなのお陰で出来上がった夢の空間で踊るだけや」


 この一日のためにダンサーが、先生方が、スタッフたちが、そしてお客さんたちが創り上げた、ひとときの夢の空間。

 園香はその言葉に強く心を打たれた。主役とは……ということを教えられた気がした。


「園香ちゃんいうたな」

 うららの言葉で園香は我に返った。

「はい」

「十二月には、この舞台に出た皆で花村バレエの公演観に行こうて話してる。楽しみにしてるから」

「ありがとうございます」

「こっちこそ、ありがとうや。今回は遠いとこから観に来てくれて」

 首を振る園香に、うららが微笑みながら、

「ダンサーもそうやけど、宝生ほうしょう先生も美香先生も、今ここにいる、ほとんどの先生方も行くて言うてはるから、また、その時な」

 そう言って、園香の手を握って、もう一度、微笑みうららは自分の控え室の方に行った。


ゆいちゃん、真由ちゃん、十二月に『くるみ割り人形』観に行くからな」

 瑠々るるが唯たちに微笑む。

「うん」

 大きく頷きながら返事をする唯。唯と瑠々が抱き合うようにしながら楽しそうにくるくる回っている。園香や真美、美織たちもその姿を微笑ましく見つめた。

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