第201話 バレエ『ライモンダ』公演前のホール

 昨日のリハーサルに園香そのかは圧倒された。緊張感もあったが、それ以上に出演者のエネルギーが凄かったというのを肌で感じた。


 今日はいよいよ公演当日。会場となっているホールの前でゆいと唯のお母さん、美織みおりやすみれ、佐和姉妹と佐和のお母さんと待ち合わせていた。


 園香は改めて、公演会場となっているホールの建物を見上げる。なんて大きいホールなのだろう。

 大阪駅から徒歩で数分。美しく大きなホールがそびえる。巨大な建物は『そびえる』という表現が合っているように思える。


 ホールの前にはたくさんのお客さんが集まっていた。お客さんの熱気がすごい。微妙な言葉の違いはよく分からないが、大阪、京都、神戸、奈良、滋賀や和歌山からも来ているようだ。遠くは岡山や広島辺りからも来ているようだ。聞こえてくる会話から、そんなことが推測できる。

 いろいろなバレエ教室の生徒たちらしい人で溢れている。


 唯と唯のお母さんがやって来た。園香と真美が唯に微笑む。

「唯ちゃん疲れてない?」

「うん」

 元気に頷く唯。本当にいつも元気な唯。見ていると園香も笑顔になってしまう。

 すぐに佐和たち姉妹もやって来た。唯と真由が何か楽しそうに話している。園香が唯のお母さんに聞くと、この公演を観た後、もう何日か大阪、京都を楽しんで帰るそうだ。真美も久し振りに帰省した大阪だ。もう少し、こっちにいるという。園香は帰りは一人で先に帰る予定をしている。

 それから少しして、美織やすみれたちがやって来ると、一瞬、その場は騒然となった。近づいてきて話しかけてくる人もたくさんいたが、慣れている様子で美織たちは話をする。サインを求めてくる人も多かったが、それも普通のことのようにサインをしては楽しそうに何か話をしていた。


◇◇◇◇◇◇


 ホールに入る赤い絨毯じゅうたんが美しく高級感を感じさせる。気品ある舞台へのエントランスという感じだ。一歩入ったところから、このホールが、おそらく関西でも有数の格調高いホールであるということを感じさせる。


 昨日のリハーサルの時は慌ただしく客席の方に走って行く瑠々るる親子に気を取られて、ゆっくり見てなかったが、落ち着いて見ると、このホールが、いかにすごいホールであるかということを実感させられた。


◇◇◇◇◇◇


 園香たちが客席に入ると既に席で話をしているお客さんもたくさんいた。一階の客席の中央に近い場所に、スタッフや関係者とおぼしき人たちが座っている。その中に瑠々るる親子の姿も見える。

 園香たちは偶然、全員がそこに近い席に座ることができた。席に着いて、改めて客席を見回す。二階席、三階席、一体どれだけのお客さんが入っているのだろう。客席に座っているだけでも、飲み込まれてしまいそうな空間に園香は緊張してしまう。


 開演の時間が近づいた。場内アナウンスが流れる。いよいよ舞台が始まる。

 客席の照明が消え、ざわざわしていた空気が一瞬にして静まり返った。

 照明が消えるのと同時に大ホールから音が消えた。

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