第199話 レベル真美

 宝生鈴ほうしょうりんの陣頭指揮の下、前日のリハーサルが行われていた。ホールで見るうららはなたちダンサーは稽古場で見る何倍も華やかでダイナミックな踊りを見せる。

 園香そのかは我を忘れて見入ってしまった。ここに集まっているダンサーたちは本当に個性豊かで華やかだ。一人一人のダンサーが主役のうららを圧倒するほどのテクニックで自分たちの踊りを見せてくる。そして、うららは、更にその上をいく技術と表現力でライモンダを演じ踊る。個のレベルの高さを見せつけられた思いがした。


 真美が舞台上のダンサーたちを見つめている。真美の目に彼女たちは、どのように映っているのだろう。

 園香はふと思った、前に真美と花村バレエの佐和が話していた。真美は二位だった。一位は瑞希みずきだった……その話の中で、真美が一位の瑞希と二位以下の差は全然違ったと、その話では、いかに瑞希が凄かったか、という話だったが、今、それを思い返すと、瑞希が一位、真美が二位、すると、いま舞台の上で踊っているダンサーたちよりも、真美の方が上手だということになる。少なくとも、そのコンクールでは、今、舞台で踊っている誰よりも瑞希と真美が上だったのか……

 そんなことを考えながら、園香が真美を見つめていると、真美と目が合った。

 真美が呟く。

「みんな上手やな」

「でも、真美ちゃんコンクールで二位ってことは、今、舞台で踊っている誰よりも上手だったんでしょう」

 真美が少し考えるようにして微笑む、

「そんな風に思ってくれて、ありがとうな。でも、そういうことでもないかもな」

「え?」

「そうやん。その前の年に一位取った先輩もいるし、その次の年に一位取った子もいる。それに、コンクールって、ある意味、その踊りばっかり、突き詰めて踊るみたいなとこもあるやん。もちろん、それだけじゃなくて、バレエのすべての技術や表現力で一定のレベル以上にならんと先生が出場させてくれんってこともあるけど……うららちゃんが踊ってるライモンダ、私は踊れへんで」

「え?」

「まあ、瑞希みずきさんとか、美織みおりさんやすみれさんは違うで、なんでも踊れんねん。バレエ団のプリンシパルの人達は、なんでも踊れんねん。でも、コンクールダンサーは、みんながみんなじゃないけど、ちょっと微妙やな」

 そういう真美の言葉を聞いていた瑞希が話に入ってくる。

「なに言ってんの。私は真美ちゃんはいろいろ踊れるの知ってるよ。あなたがコンクールで踊った踊りで、私の記憶にあるのは『ダイアナとアクティオン』のダイアナとか『ドン・キホーテ』のキトリ、あと『コッペリア』のスワニルダ。そうそう『グラン・パ・クラシック』はイマイチだったけど」

 そう言って瑞希が微笑む。

「ええ! あれも見られたんですか」

「うん、でも、予選は通過したわよね」

「よく見てますね」

「真美ちゃんは決選で競う人の一人と思ってたから注目してたのよ。だから、真美ちゃんが花村バレエに初めて現れた時は本当に驚いたよ」

「ええ、嬉しいです」

「でも、グランパの時は勝ったなって思ったよ。今回は真美ちゃん気にしないでいいなって」

 瑞希と真美が笑う。すみれが横から、

「真美ちゃん、なんで急にグランパだったの?」

 と聞いてくる。グラン・パ・クラシックといえば、すみれが得意とするレパートリーだ。

「踊りたかったんです」

「そうなの。じゃあ、今度きちんと教えてあげるわよ」

「え! 本当ですか」

「ええ、扇子せんす持って教えてあげる」

「それはいいです」

 皆に笑いが広がった。舞台では最後のリハーサルが進んでいる。

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