第197話 ちいさなバレリーナ 瑠々

「え、真美ちゃん、今の人、瑠々るるちゃんのお母さん?」

「うん、そう、美香先生の従妹いとこになる人なんだよね。なんか、いつも忙しい人で、瑠々るるは赤ちゃんの頃からバレエ教室に預けられることも多くて、私ずっと瑠々るるの世話させられてたんで。だから、瑠々るるはかなり年の離れた妹みたいな感じや」

「へえ、そうだったんだ」

「美香先生が『私、保母さんちゃうから、真美、瑠々るるの世話お願い』て。それが理由やったら、私も保母さんちゃうでって感じやけどな。まあ、美香先生があんな感じでバレエ教えてる教室で育ってるから、瑠々るるの喋り方も、あんな感じなんかなあ」

 何か、真美と瑠々るるの意外な一面を見た気がした。


「小さい頃から、厳しいバレエ教室の稽古場で育ったら、メンタル強くなるんだろうね」

 園香そのかが真美に呟くと、真美が首をかしげる様にしながら、

「……さあな、どうやろ、それは、愛情いっぱいに育てられたうえで、厳しい稽古の世界に身を置くんなら、強い子になるかもしれんけど、もし、愛情が足りてなかったら、いざというときメンタルの弱さが出ることがあると思うねん。稽古場の皆からは可愛がられてたけど、どうやろ、ちょっと心配はあるな。その点、愛情いっぱいに育てられてるゆいちゃんは強いと思うわ」

「本当ね。唯ちゃんには、そういうの感じるよ」

 園香は唯の方を見て微笑む。

「時々『甘やかすのは過保護』とかいう人もいるけど、本当に愛情与えられてるんと過保護は、また、違うねん。唯ちゃんは強い子になるよ。それに比べると、瑠々るるは、ちょっと心配かな」

 すみれが美織みおりの方を見て呟く、

「踊りに出るわね」

 美織が頷き、

「そう、なんだか、瑠々るるちゃんのキューピッド、信じられないくらい、すごく上手だったけど、自分を見て欲しくて一生懸命って感じだった。それに比べて唯ちゃんは、唯ちゃんから放たれるオーラというかエネルギーみたいなのを感じたのよね」


 園香は、ふと今になって思えば、あのとき瑠々るるは「私はキューピッドが踊れる。ナポリが踊れる」と、何か自分をわかってもらおうと一生懸命だったようにも思えた。自分をもっと見てもらいたくて、いろいろな踊りを覚えているようにも思えた。



 客席に入ると舞台の上では既にリハーサルが始まっていた。

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