第196話 公演前日のホール前で

 公演の前日。ホールでのリハーサルが行われる。この日も園香そのかたちはゆいと唯のお母さんと最寄り駅で待ち合わせてホールに向かう。

 大きいホールだ。ホールの前に着くと美織みおりやすみれ、瑞希みずきたちが先に来ていた。少し話をしていると、佐和や真由たち姉妹がお母さんとやって来た。

 もう出演者たちはリハーサルが始まっている。ホールの客席に通じる階段を上り、客席の入り口まで行くと、真理子とあやめ、青葉あおば古都こと恵人けいとがいた。

 そろそろ中に入ろうとしたとき、一人の女性が小さな子どもを連れてホールにやって来た。キリっとした感じの女性はバレエ関係者のように見えたが、手をつないでいる子は、昨日、稽古場にいた瑠々るるだった。手に小さなタンバリンを持っている。園香は、あのタンバリンは教室の小道具ではなく、瑠々るるのものだったのかと思い、タンバリンを、いつも大切に持ち歩いている瑠々るるを可愛らしいと思った。


 瑠々るるの親子と目が合った。

「おはようございます」

 思いがけず向こうから挨拶されて少し驚いた。しかし、よく考えてみれば、今回の公演はいろいろなバレエ教室の合同公演である。知らないバレエ関係者に顔を合わせることも多い。瑠々るるのお母さんは、きっと、園香たちのことを、どこか関西のバレエ関係者と思い挨拶してきたのだろう、そんな感じがした。

 が、次の瞬間、女性の表情が変わった。

「あら、真美ちゃんやない」

 真美も驚いた表情で返事を返す。

「あ、瑠々るるちゃんママ」

「真美ちゃん、また、バレエ始めたんやてねえ」

「うん」

「よかったわ。今は四国のなんとかいう有名なところでやってるて聞いたけど」

「なんとかって、花村バレエっていうとこです。この方々と一緒のとこです」

「あ、初めまして。芹沢せりざわいいます。真美をよろしくお願いします。ほな、私、急いでるから、この子、美香先生に預けに来たねん。また夕方迎えに来るから」

「なんや、まるで美香先生とこが託児所やなあ。ほんま、今日がどんな日か、わかってるん?」

「今日は本番前日のリハーサルの日やん。真美ちゃん、瑠々るるをよろしく」

そう言って、客席の方に早足で歩いて行った。


 園香たちは呆気に取られて、その様子を見ていた。

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