第193話 きっと永遠のライバル 唯と瑠々

「それ、その踊り、最後まで踊れるん?」

 瑠々るるがたどたどしくゆいに聞く。

「うん」

 ゆいが微笑む。


「踊らんでええ」

 宝生ほうしょうが唯と瑠々るるの会話をさえぎるように唯に近付いてきた。そして、唯の顔をじっと見つめて言う。

「唯ちゃん、あんた、すごいな。でも、もう踊らんでええわ。また、もうちょっと大きいなったら、その踊り見せてや。そやなあ、トゥシューズ履けるようになったら、また見せてや……な」

 唯が宝生ほうしょうに微笑んで頷く。

「ここにいる先生みんな、今度、唯ちゃんが踊るキャンディ見せてもらいに行くつもりやから」

 宝生が微笑み、唯の頭を優しく撫でる。

 唯がすみれと美織みおりを見上げるようにして、もう一度、宝生ほうしょうの方を向いて大きく頷いた。


 宝生ほうしょうが今回の公演バレエ『ライモンダ』の出演者たちの方を見ながら、

「今、唯ちゃんに、その踊り最後まで踊られたら、ここにいるみんな、自信失くして今回の舞台踊れんようなるわ」

 そう言って唯に微笑んだ。

 宝生ほうしょうは、すみれと美織みおりを見て、もう一度、唯の顔を覗き込むようにして微笑む。

「唯ちゃん、すみれさんや美織みおりさん、それから真理子先生に大事に育ててもらい。ところで、唯ちゃん、今、いくつや」

 唯が笑顔で宝生ほうしょうに言う。

「今、三歳。もうすぐ四歳になるの」

 宝生ほうしょうは、一瞬、化け物でも見るかのような強張こわばった表情を見せたが、すぐに微笑んで、

「唯ちゃん、あんた、きっと、すみれさんや美織さんみたいになるで」


 そして、瑠々るるに振り向き、

瑠々るる、思い上がってんと、きちんお稽古しい。あんたも才能あんねんから。唯ちゃんの踊り見たやろ。口ばっかり達者たっしゃにならんとバレエのお稽古せなあかんいうんもわかったやろ」

 頷く瑠々るる宝生ほうしょうが微笑んで、

「あんたは美香先生に鍛えてもらい……な」


 宮崎美香がすみれと美織のところに来た。

「すごい子やな。唯ちゃん」

 すみれと美織が唯の頭を撫でながら頷く。唯が二人を見上げる様にして微笑んだ。


 美香が遠目で見る様に唯を見て、もう一度、瑠々るるに目を向ける。

「でもな、うちの瑠々るるな、口が悪うて偉そうやから、見過ごしそうやけど、この子の才能も負けてないと思うてるから。いつか一緒に踊らせたいなあ」

 そう言って微笑んだ。

 そして、いつも持っている扇子せんす瑠々るるの頭を軽く叩き、

瑠々るる、知佳ちゃんと唯ちゃんと……真美ちゃんに『ごめんなさい』しとき」

 瑠々るるは頷き、トボトボと歩いていって、知佳、唯、真美に頭を下げて謝った。


 真美が瑠々るるに、

「素直やん」

 と言うと、瑠々るるが少し睨むように真美を見上げて、

「おかえり」

 と言って微笑んだ。


「なんや、一々、ませたこと言うなあ。普通このシチュエーションで四歳の子から『おかえり』って言葉出てくるか?」

 真美の言葉に稽古場にいる皆が笑った。


 宝生ほうしょう瑠々るると唯二人に微笑み、二人の未来を見つめる様な眼差まなざしで呟いた。

「あんたたち二人は近い将来、どこのコンクール行っても必ず顔合わせるようになるで、バレエやってる限り、ずっとライバルや」

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